山陽日日新聞社ロゴ 2012年2月2日(木)
旧・東予町の岡本晴見さんから..
 甦る東予町の思い出
  昭和初年、小歌島にての花見
桜の木の下で集合写真
 古めかしい集合写真。映っているのは「東予
(とうよ)町」の人々、場所は向島の小歌島であ
る。
 東予町?..聞き慣れぬ町名と思われるかもしれ
ないが、現在の東御所町海岸通り、岡本タバコ店
(ジョンバーガー)やしみず食堂一帯の界隈を、
古く東予町といった。
 「東予」とは、東予運輸会社が開設した桟橋
(東予桟橋、発着する船は東予丸で今治・多度津・
宇品間の航路)に因むもので、東予桟橋が姿を消
し、桟橋のあった風景も一変、そして当時を知る
人も少なくなって来た今、東予町という名は、人
々の記憶の内から忘れ去られようとしている。
 東予町の記憶を引き継ぎたいとの思いを抱く町
内の岡本晴見さん(岡本タバコ店店主、ジョンバ
ーガーは娘さんの経営)から寄せられた古写真は、
昭和初期(4〜5年頃)、町内の人々が対岸の小
歌島へ花見に出掛けた時の一枚で、向かって右端
に立つ男性が岡本さんの祖父・岡本新次郎さん。
芸者も繰り出しての賑やかな宴が偲ばれて来る。
 岡本さんの父・晋さんが平成6年に書き残した
添付の人物配置図を見ると、岡本さんの隣で一升
瓶を持つスーツ姿の男性とそのすぐ後ろの男性は
東予汽船の関係者、三味線弾く芸者さんに寄りか
かるのは池田亀三船具店、最前列中央のインテリ
風の男性が写真撮影を担った三島写真館主人。そ
の他、安田カバン店、小田亀鉄屋、伊豫屋旅館な
どといった当時あったお店の名も確認される。一
番左端でダルマさん(三原だるまか?)を手に写
真に収まる少女も微笑ましい。
 花見を繰り広げた小歌島は、東予町の人々にと
ってゆかりある所であった。
 小歌島に祀られる小歌島神社(厳島神社)で、
毎年夏に執り行われた「宮島祭」にて、御神体を
乗せた神輿が海を渡り、対岸の東予町へ迎え入れ
られた。この祭典に氏子的な存在として東予町の
人々が奉仕したのである(小歌島の宮島祭につい
ては、本紙連載の「尾道をゆく」の内で紹介済み)。
 かなりの賑わいを見せた宮島祭の記憶も、東予
町の名と同じく消え失せてしまった。
 こういうものにこそスポットを当て、埋没した
底の中から掘り起こし、再発信する営みこそ、地
味ながらも尾道学の真髄であると、いつも思って
いる。             [林 良司]



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