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2009年12月3日(木) 森岡久元さん 今夏で社長職退き、執筆に専念− 別れから生きる希望を 自体験ベース9冊目、小説集『恋ヶ窪』上梓 |
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第二次大戦中に母親の古里尾道に疎開し、4歳 から高校卒業までの青少年期を過した作家で会社 経営者の森岡久元さん(69)が9冊目となる小説 集『恋ヶ窪』を澪標(大阪市)から発刊した。大 人の恋と友情、生と死から、「生きる希望」を描 いた力作になっている。 [幾野伝] 書名の「恋ヶ窪」と「神楽坂百草会」、「鹿児 島おはら祭り」の三つの短篇で構成する。本体 1600円。啓文社各店にも並んでいる。 「鹿児島おはら祭り」は人間の生と死がテーマ として流れる。かつての会社の同僚を見舞い、や がて見送ることになる主人公は、日常のなかに夫 婦の姿や家族愛を見付け、若き日の思い出を辿る。 さらに後半にもう一つ、自閉症の少女の成長をサ ブ・ストーリーとして垣間見せることで、人間の 「死から生」へのバトンタッチ(=希望)が感じ られる。作者自らの体験が多分に盛り込まれてい る作品だという。 大阪生まれの森岡さんは、第二次大戦の空襲が 激しくなるなか、4歳で母親の古里尾道に疎開。 久保小から5年生で土堂小に転校し、長江中、尾 道商業高校に学び、当時活発だった文芸部で同人 誌に小説を発表したのが始まりだった。 多くの友人が就職するなか、親の理解と学資協 力があり関西学院大学文学部英文学科に進学。在 学中に同人誌『姫路文学』に参画し、本格的に創 作に取り掛かったものの、卒業後は日本企業とア メリカ企業の橋渡しを行う社団法人のコンサルタ ント事務所に就職。その後30歳で独立、当時はま だ珍しかったコンピュータ関連部品の商社を立ち 上げ経営、アメリカに滞在するなど忙しさから長 年、執筆は休んでいた。 しかし、14年ほど前に休刊していた『姫路文 学』が復刊されたことを聞き、書くことへの情熱 が再び沸き上がってきた。同人誌『別冊開學文聾』 や『姫路文学』、『酩酊船』などに作品を発表し、 これまでに小説集として『崎陽忘じがたく』『南 畝の恋』『花に背いて眠る』『尾道渡船場かいわ い』『ビリヤードわくわく亭』『尾道物語・純情 篇』『サンカンペンの壷』『尾道物語・幻想篇』 (いずれも澪標刊)を上梓している。 古典文学を絡めながら、男と女の心の葛藤やひ だを綿密に描いた作品が多く、戦争から平和をた ぐり寄せようと試みるのも大きな特徴になってい る。尾道を舞台にした作品は、自らの青年期の淡 く切ない体験などがストーリーのベースになって おり、『尾道渡船場かいわい』は第七回神戸ナビ ール文学賞を受賞している。 来年で創業40年を迎える会社は今年8月、そ れまでの社長職を後進に譲り会長職になったこと で、「自由になった時間を活かして、これからは 執筆に専念したい」と森岡さん。 次回作は頼山陽の「十八歳の旅」をテーマに、 現代の社会事情にせまる内容で執筆しており、竹 原や尾道も登場してくると話している。 |