2009年11月7日(土)
イコモス会長
鞆の浦、総合的に合わさり価値を−
 「本の重要なページ
   破って燃やしてしまうのと同じ」
イコモス会長
 「世界遺産」の候補地の調査などにあたる国際
記念物遺跡会議(イコモス)のグスタボ・アロー
ズ会長がこのほど、福山市鞆の浦の町並みを初め
て視察し、これまでの同会議総会での勧告決議と
同様、埋立て架橋計画の撤回と見直しを求めた。
視察後、鞆の中心にある国重文の太田家住宅の蔵
で行われた記者会見でアローズ会長(=写真)は
次のように述べた。
Q(出席の各記者)、日本イコモス国内委員会で
「鞆の浦は世界遺産級だ」と評価されているが、
今日実際に鞆の浦を見た感想は?
A(アローズ会長)、世界遺産で登録されるため
には、イコモスとしては何ヶ月もかけて極めて真
摯な調査をやるため、鞆の浦が世界遺産に値する
かどうかを簡単に言うことは難しい。しかしそれ
は別にしても、鞆の浦が極めて高い価値があると
いう日本イコモスの意見に全く賛同する。
 イコモスはこれまでに何度も、架橋計画が損失
をもたらすことに対し、組織一体となって懸念を
表明してきた。2004と06年の各委員会、0
5年と08年には総会決議などで計画プロジェク
トの中止を求めてきた。
Q、鞆の文化的遺産としての価値はどこにあると
感じたか?
A、短い訪問時間だったが、鞆の浦が実に多方面
にわたる要素を持ち、かつそれが歴史的な深みを
持っていることを認識した。「歴史と海との関わ
り」、「歴史的な町並みの局面」、それと「文化
的景観」(ランドスケープ)、鞆の浦は海との関
わりが切り離せないので、シースケープというの
が正確かも知れない。「個々の民家」そして「文
化的な継続性」がある。「人の営み」と「町」と
の関わりが、海を媒体にして成立していること、
これが現在も継続され、総合的に合わさって価値
を作っており、どれ一つも欠かせない。
 今日は自分の目で深く読み取るところまではい
けなかったが、案内の松居(秀子)さんの説明を通
して、鞆は過去が現在にまで繋がっていることを
読み取れた。建て物の構造も、町のレイアウト、
例えば雁木、浜などが複合的に繋がっている。こ
ういう一個づつが大事だが、全部がまとまって一
体として存在していることが素晴らしい。
 現在、計画されている埋立て架橋案は言ってみ
れば、「本の重要なページを破り取って、燃やし
てしまうようなもの。だからそこに残った本は、
永遠に完全な姿を取り戻せない本になってしまう」
と感じる。
Q、先月、広島地裁で「鞆の浦の景観は国民の財
産である」という画期的な判決が出たが、県は控
訴してこれからもまだ争いが続いて行くが...
A、判決のニュースは欧米のメディアでも取り上
げられた。もちろん、控訴することは民主主義の
プロセスの一環だから何も言わないが、高裁が地
裁と同様に「国民の財産である」と判断すること
を信じている。
 同様の問題は他の国にもある。政治家は次の選
挙で再選されなくてはならず、そのために出来る
だけ短期に結果が出ることを求める。しかし私達
は次世代、次々世代のために遺産を残すことが大
きな活動目的なので、政治のすぐに結果を出す考
えとは相容れない。
Q、「世界遺産よりも架橋計画」という住民もお
り、どのようにアプローチ出来るか。
A、架橋計画を支持するのはなぜか、その理由を
聞いてみたい。計画自体が良いと思っているのか、
あるいは何らかの目的を実践するために支持して
いるのではないか。もし後者ならば、他の方法は
ないかと考えることは可能だと思う。
Q、多忙な日程の中、世界遺産に登録されていな
い鞆の浦をわざわざ訪れたのはなぜか?
A、さまざまな理由で、世界遺産の登録が主な任
務になっていることは否定出来ないが、イコモス
の関心は世界遺産だけではなくて、全世界の遺産
に及ぶ。特に私は、危機に瀕して世界遺産になっ
ていない所を数多く訪ねてる。
Q、開発しないで、もし人が住まなくなると、そ
れで歴史が途切れることにはならないか? 町並
みも残しながら、生活も出来る町はどのようにし
て創ればよいのか?
A、私は「保存」と「生活」が対立するとは思っ
ていない。鞆の浦の道が狭いということは否定し
ないが、しかし狭いからというのなら、フィレン
ツェやローマ、あるいはロンドンの一部などは建
て物を壊さないといけなくなる。そういう問題で
はなくて、大事なことは、解決策の見つけ方であ
る。鞆の浦なら例えばトンネルを造れば、破壊さ
れる物はより少なく、かつ工事費は安価である。
 しかし住民が自分達の歴史を消し去りたいとい
うのであれば、それは一つの決断。ただ、私の国
での数多くの経験から言っても、歴史を消してし
まって新しい物を作る決断をした町は、後になっ
て「しなければ良かった」という後悔が生じてい
る。そして全ての町が同じように見えるという現
象が実際に起こっている。     [幾野和也]



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