2009年6月11日(木)
池田康子さん
企画展・芙美子の源流をたずねて−
 尾道の情景や世相映す
 大正時代『風琴と魚の町』に再び焦点を
展示の様子
風琴と魚の町 今回の挿絵
 16の歳の差はあるものの、作家林芙美子(1903
〜51)の幼女期とほぼ同じ時代に尾道土堂に生
きたことを誇りとし、継承に励んでいる東土堂町、
池田康子さん(90)による企画展示、第3回「林
芙美子の文学の源流をたずねて」が、本通りの街
かど文化館で開かれている。今年のテーマは尾道
を舞台にした短篇の自伝小説『風琴と魚の町』で、
「大正期の尾道の情景と人情が細かに綴られた作
品を、もう1度読んでみてほしい」と話している。
                 [幾野伝]

 毎年テーマを一つ掲げ池田さん自らの研究成果
を発表する場になっている「芙美子の源流をたず
ねて」展は、命日が6月28日の林芙美子を偲びな
がら伝承するいく第24回「芙美子ウィーク」の一
環で企画し、尾道学研究会と市教委が主催、尾道
市と山陽日日新聞社などが後援している。28日ま
でで入館は無料。
 今年は尾道の幼女時代を描いた短篇小説『風琴
と魚の町』(1931年、改造社刊)に再び焦点を当
て、当時の尾道の情景や世相が伝わる場面が多い
作品の全文を自筆で書き記し、同時期に撮られた
写真や絵葉書とともに展示している(=写真。挿
絵は池田さんらによる、芙美子一家が尾道に降り
立った時の様子を描いたデザインで、企画展のシ
ンボルになっている)。
 「『風琴と魚の町』は、まさに大正時代の尾道。
大正5(1916)年の春、14歳の芙美子が行商人の
両親に連れられて尾道駅に降り立った日からの小
学校時代を描いたものだが、数多い短篇の中でも、
『九州炭坑街放浪記』と並んで特に傑作」と池田
さん。
 「芙美子が尾道に来た3年後、すぐ近くの本通
りに生まれ育った私の記憶にある世界そのままが
小説の中にある。大正11年に上京、『風琴−』を
書いたとされる大正14、15年は私が土堂小学校1、
2年生。当時の風景、世相、人情が活き活きと正
直に描かれていて、胸が打たれる」と話す。
 例えば、尾道に着いた日、親子3人が雁木でう
どんを食べる場面に注目。芙美子のうどんにだけ
油揚が入っていて、「どうして私だけ?」と聞き
「黙って食え」と一蹴されるも、父親の碗にそっ
と分け入れると、父はそれを美味そうに食べたと
いうくだりがあり、「当時の社会情勢や貧しかっ
たけど助け合った人情ある時代がみてとれる。芙
美子は母と義父の心からの愛と優しさを受けて、
のびのびとした性格、至情を育てたと思う」と分
析する。
 さらに、「描かれた親子の生活、対話、日々の
出来事、その中の心象風景に、芙美子の詩魂と文
学の源流を見出す思いがし、興味が尽きない。こ
の機会にぜひもう一度作品を読んでみてほしい」
と語り、「私は当時の尾道を知る生き証人で、語
ることが出来る数少ない者として後世に伝え残し
ておく責任がある−」と今後さらに研究を深めて
いきたい考え。
 28日には芙美子像での「あじさいき」の後、展
示会場で小学生との朗読会を開くことにしている。

おのみち街かど文化館はこちらの「お」



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