2008年6月26日(木)
抗議声明相次ぐ
 最後に問われる国と司法の良識
  地方の歴史と文化見直す時期に
常夜灯前から見た風景の変化予想
 福山市鞆の浦の埋立て架橋計画で、広島県が国
土交通省に免許の認可申請をしたことに対して、
計画に反対する団体が改めて県と福山市の姿勢を
批判、国の良識ある判断を求める抗議声明文を発
表した。             [幾野伝]

 24日に反対声明を発表したのは、鞆の世界遺産
訴訟原告団(大井幹雄原告団長)と鞆の世界遺産
と活力あるまちづくりをめざす住民の会(鈴木晋
三代表)の連名▽日本イコモス国内委員会(前野
まさる委員長)▽「鞆の世界遺産実現と活力ある
まちづくりをめざす住民の会」を支援する会(池
田武邦代表)▽「同住民の会」を支援する会有識
者(西村幸夫東京大教授、窪田亜矢東京大准教授、
中島直人東京大助教)。
 鞆の世界遺産訴訟原告団/鞆の世界遺産と活
力あるまちづくりをめざす住民の会

 鞆地区道路港湾整備事業に関して、広島県は鞆
の浦の公有水面埋立免許を「適当」と判断し、国
への認可申請に踏み切った。しかし、現在係争中
でもある本件埋立て事業は、以下の通り適当と判
断すべき要件は全く満たしていない。
 本年2月29日付で、広島地裁より下された仮差
止めの決定では、「本件埋立てが着工されれば、
焚場の埋立てなどが行われ、直ちに鞆の浦及びそ
の周辺の景観が害され、しかも、いったん害され
た景観を現状に回復することは困難である」とあ
り、『本件事業による重大な損害』が明確に示さ
れている。また、「埋立免許がなされた場合、免
許差止訴訟を直ちに取消訴訟に変更し、それと同
時に執行停止の申立てをし、本件埋立てが着工さ
れる前に執行停止の申立てに対する許否の決定を
受けることが十分可能である」ともあり、『重大
な損害により埋立免許の取消しが可能である』こ
とが示唆されている。
 また、同決定文において裁判所は、埋立予定地
に隣接する原告住民の排水権を明確に認めている
が、事業者らは、排水権者が求める個別説明会の
開催に一度も応じていない。
 現在裁判所は、被告である県に対し、埋立ての
目的や必要性、合理性や代替案に対する優位性、
埋立てて得られる利益が損害を上回ることなどに
ついて、「根拠を具体的に説明する必要がある」
と釈明を求めている。これに対し県は、先日19日
の第7回期日において、「準備出来ていない」と
の理由で8月まで回答を延期した。
 このように本件事業は、この期に及んで免許願
書の必要書類である「埋立理由書」の内容不足を
指摘され、今になってその根拠や説明が作成され
ている段階にある。
 以上のような状況で国へ認可申請することは、
非常に拙速な判断と言わざるを得ず、強く抗議す
る。
 「鞆の世界遺産実現と活力あるまちづくりを
めざす住民の会」を支援する会

 広島県と福山市が行った鞆の浦の埋立免許認可
申請は、歴史的港湾遺産をふくむ貴重な鞆の浦の
景観を破壊するのみならず、我々日本人が守らね
ばならない日本に唯一現存する貴重な港湾の文化
遺産を傷つけ、日本の生きた歴史を冒涜するもの
である。今後の鞆の浦のまちづくりにとって重大
な損失を生むことはもちろん、私たち日本人の心
の問題として取り返しのつかない禍根を残すこと
になるだろう。
 今年夏、公開予定の『崖の上のポニョ』は、宮
崎駿監督が鞆に長期滞在してその構想を練ったこ
とは、広く知られている。今までも日本国内だけ
でなく、海外からの観光客も魅了してきたが、今
後さらに多くの国内外の人々に知られるであろう
景観を破壊することは、広島県・福山市だけの問
題でなく、日本の問題でもある。
 多くの自治体で、地方の持つ歴史と文化の魅力
を最大限に活かし、活性化を図ろうとしている今、
それに逆行する施策を強行する広島県と福山市に
強く抗議する。
 また、国交省には、将来に禍根を残さない適切
な判断をされるよう、強く要望する。
 「鞆の世界遺産実現と活力あるまちづくりをめ
ざす住民の会」を支援する会の有識者も、既に8
万筆以上寄せられている反対署名を背景に、「我
が国の極めて貴重な歴史資産を破壊することにな
る−」と計画反対の声明を発表している。

国際的注目を 歴史まちづくり法
日本イコモス委員会も声明
 「イコモス(国際記念物遺跡会議)」が3回に
わたる中止勧告をしているにもかかわらず、貴重
な歴史的景観を損なう事業を進めようとする福山
市と広島県の見識を疑う。
 歴史まちづくり法が成立した現在、国土交通省
は国際的に注目されているこの問題で、歴史的に
汚点を残さない判断をするよう強く望みたい。
              委員長前野まさる



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