2008年3月27日(木)
鞆の浦
無謀な計画「観光客激減する」
 文化財保存全国協議会も指摘を
海から見た鞆の町並み
 福山市と広島県が進めている福山・鞆の浦の埋
立て架橋計画に対して、中止を求める声がますま
す大きく広がっている。全国の歴史学者や愛好家
でつくる文化財保存全国協議会はこのほど国、県、
市あてに計画の中止を求める要望書を出した。朝
日新聞26日付け「私の視点」欄(29ページ)では、
日本イコモス国内委員会の矢野和之事務局長が
「保護に国レベルの判断も」の見出しで文を寄せ
ている。             [幾野伝]

 文化財保存全国協議会(石部正志・十菱駿武代
表委員)による要望書は、冬柴鐵三国土交通大臣、
青木保文化庁長官、藤田雄山県知事、羽田皓福山
市長、高橋和男教育長あて。
 江戸時代からの建造物が500棟近く存在し、
鞆港全体での歴史的景観の重要性に触れながら、
「世界遺産に登録されるに十分な価値をもってい
る、かけがえのない歴史的文化遺産と景観をきわ
めて良好に保持している鞆の浦が、県道建設に伴
う架橋と埋立てによって破壊的被害を被るおそれ
が切迫しているとの報に接し、非常に驚き、現地
を視察し、無謀な計画に愕然とした」と記述。
 さらに「県道が予定通り敷設されれば、たとえ
鞆の浦の町並みが重要伝統的建造物群保存地区に
指定されたとしても、観光客は激減する」と指摘
し、1.計画の抜本的な見直し2.世界遺産物件とし
ての推薦3.埋立てようとしている「焚場」などの
まだ埋もれたままの歴史的港湾施設の調査4.現在
市が進めようとしている町並みだけでなく、港湾
部分を含めた鞆の浦全体の重要伝統的建造物群保
存地区への指定の4点を求めている。

「歴史まちづくり法案」
 国の施策 鞆の浦は格好の対象にも

 鞆の浦世界遺産登録を実現する生活・歴史・景
観保全訴訟原告団(大井幹雄団長)と鞆の世界遺
産実現と活力あるまちづくりをめざす住民の会
(鈴木晋三代表)は、埋立て架橋計画の認可を出
さないように求める要望書を、藤田武彦国土交通
省中国地方整備局長に提出した。
 免許仮差し止め申立ての決定で先日、広島地方
裁判所が「工事が着工されたら、いったん害され
た景観を現状に戻すことは著しく困難−」と明示
したことを受けての再度の要望で、大要次のよう
に述べている。
 広島県出身の平山郁夫画伯などが懸念を表明し、
さらにユネスコの諮問機関で世界遺産の選定に大
きな力をもつイコモス(世界記念物遺跡会議)の
メンバーは現地視察して、人類共通の遺産として
高く評価、2005年のイコモス会議で埋立て架橋計
画の再考を求める勧告を出し、ワールドモニュメ
ントウォッチも危機に瀕する文化遺産の中に入れ
て警鐘を鳴らしているとおり、国際的にも注目を
集めています。
 全国の著名な多数の識者が声を揃えて繰り返し、
事業の不当性を唱え反対しているのは、鞆の問題
を放置しては、日本の文化や歴史遺産・自然遺産
の保護と活用、文化的観光の推進が出来ないとい
う危機感を前提にしているからです。
 すでに閣議決定され、国会で上程されることに
なっている、文化庁と国土交通省・農林水産省の
共同所管の『地域における歴史的風致の維持及び
向上に関する法律案』いわゆる『歴史まちづくり
法案』は、歴史や文化をまちづくりの核とするも
ので、鞆の浦を含む鞆地区はその格好の対象とな
り得ることは紛れもないことです。観光庁の設立
意義とも大いに関わってきます。
 このように、国の施策が大きく文化・歴史・景
観を大切にしていこうという方向へ舵をきりつつ
あるところへ、広島県と福山市が、頑に事業に固
執することは、結果的に住民の利益、ひいては国
民の利益を損なうことになるでしょう。



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