2008年3月16日(日) 其阿弥さん来尾 『刀鍛冶其阿弥の末裔』後日談 尾道で先祖と再会す 尾道学研究会 林 良司 |
||
其阿弥(ごあみ)の打った刀に鍔(つぱ)が、 我が家にありますよ−。 昨年の山口玄洞翁没後70年顕彰事業で、実行委 員長の大役を果たして下さった芳選堂の佐々木猛 朗さんが、本紙1月27日付け掲載『刀鍛冶其阿弥 の末裔』を読んで、早速連絡を下さった。 以前お邪魔した折、随分と刀剣や鍔をお持ちで あるのは存じていたが、まさかその内に、尾道鍛 冶の名門・其阿弥の作があろうとは思いもよらな かった。佐々木さんは以前、刀剣に大層凝られ、 其阿弥の刀一振と鍔は、その時入手されたものと いう。 刀は脇差しで、銘には【尾道住其阿弥定行】と 刻まれ、作られた時代は「天文十一年八月」(1542 年)となっている。一門の内でもとりわけ名刀工 と讃えられ、長江艮宮に顕彰碑が建つ其阿弥長行 (ながゆき)の子、それが定行(さだゆき)であ る。 鍔は二つで、一つは永楽通宝(えいらくつうほ う)をあしらった打出し鍔、今一つは蝶を意匠化 した京献上鍔である。何れの鍔にも「其阿弥」の 銘が誇らしく刻まれる。 「もう一つ備州住重光(しげみつ)の短刀があ る」と見せられたそれは、日本美術刀剣保存協会 から特別貴重刀剣認定を受け、市の重文指定とも なっている逸品であった。刻銘によれば【応安7 年(1374)十二月】の作で、モノとしてはこちら の方が、素人目にもいい仕事をしてますねぇと言 いたくなるものがあった。佐々木さんもお気に入 りの刀ですと目を細められる。 重光は其阿弥に同じく、元祖三原正家から分派 した「辰房」を称し(辰房重光)、其阿弥と系統 を同じくする尾道の刀鍛冶一派であった。其阿弥 と異なり資料的なものが少なく、故に市史編纂の 青木茂氏も幻の刀鍛冶としている。その幻の刀工 の逸品を目の前にし、重みのある刀を手にした時 は、思わず手が震えてしまった。 これら其阿弥ゆかりの品々を写真に撮り、廿日 市にお住まいのご子孫・其阿弥覚(さとる)さん へお送りして差し上げた所、是非現物を見てみた いので尾道へ参りますとの展開になり、先日、奥 様と一緒に来尾され、佐々木さん方を訪問された。 脳梗塞を患われ、足もお悪い中を来尾された其 阿弥さんは、先祖の打った刀を手にされ、感慨深 げにしぱし無言で見つめておられた(=写真)。 片や佐々木さんも、子孫の方にお越し頂き、こう して見て頂けるとは..と、こちらも深い感慨に浸 られていた。 尾道の名刀工・其阿弥とその子孫の、故地であ る尾道での再会の一時であった。 |