2008年3月5日(水)
原告住民は大きな前進景観利益認める
 広島地裁「一旦壊されたら、回復は困難」
原告弁護団
 福山市鞆町の埋立て架橋計画をめぐり、住民が
県を相手に起こしている「鞆の浦景観保全訴訟」
のうち、免許交付の仮の差止め申請について広島
地方裁判所が、却下を決定した。しかし、「歴史
的な町並みに暮らす住民には、景観利益を有する
権利がある」ことを認め、「工事が着工されれば
鞆の浦や周辺の景観が害され、一旦壊された景観
は原状回復が困難になる−」と現計画への疑念を
明確に示した。原告・弁護団は「却下には不満だ
が、内容そのものは画期的な判断。今後の差止め
訴訟に明るい光が差してきた」と高く評価した。
                 [幾野伝]

 免許の仮差止め却下の決定(能勢顯男裁判長)
は、29日付けの書面で3日午前に弁護団宛てに届
いたもので、急きょ大井幹雄原告団長と山田延廣
弁護団副団長らが同夕方、広島市中区の広島弁護
士会館で記者会見を開き報告した(=写真中央が
大井原告団長、向こうが山田弁護士)。
 「原告としての適格・不適格」と「緊急性の有・
無」が争点になるといわれる仮差止め訴訟だが、
今回裁判所は原告のうち排水権者としていた98人
全員の排水権と、景観利益を有すると訴えている
町人のうち歴史的町並みゾーンを外れた4人をの
ぞく住民63人が原告適格者と認めた。これまで県
側は「98人のうちの多くに排水権はない、原告不
適格」と主張してきたが、大きく覆された。
 決定では、合わせて原告163人のうち160
人に「裁判を受ける権利がある」と認められたこ
とになり、「これで、本裁判(差止め訴訟)で門
前払いされることはなくなった。さらに法的保護
に値する景観利益を有すると明確に認めたことは、
これまでの裁判例には見られない画期的な判断。
結果は却下であるが、中身では勝訴したと言える」
と山田弁護団副団長は評価した。
 「今回却下された唯一の理由−」と弁護団が語
った仮差止めの「緊急の必要性」については、
「たとえ埋立て免許が出された場合でも、工事着
工には1ヶ月〜2ヶ月が必要となり、その間に現
在進行中の免許差止め訴訟を免許取消し訴訟に変
更し、同時に執行停止の申立てをして着工前に許
否の決定を受けることが十分に可能であるー」と
の見解を示し、現時点での緊急性はないと判断さ
れた。
 住民の景観利益について裁判所は、近世の港を
特徴付ける雁木・常夜燈・波止・焚場・船番所の
5つの要素が残っている(我が国では鞆の浦だけ)
▽朝鮮通信使による「日東第一形勝」の賞賛の歴
史▽古都保存財団による「美しい日本の歴史的風
±100選」に選定されているなど、具体的な客観的
価値を挙げ、「埋立てが着工されれば、焚場の埋
立てなどが行われ、直ちに鞆の浦やその周辺の景
観が害され、しかも一旦害された景観を現状に回
復することは著しく困難である」と言及した。
 大井原告団長は「排水権、景観権がここまで踏
み込んで認められるとは思っていなかった。却下
は残念だが、我々に明るい光が差してきた。良き
古里、良き日本を創るためにこれからも努力した
い」とこれから佳境に入っていく差止め訴訟への
意気込みを語った。

鞆の浦の世界遺産登録を実現させる
生活・歴史・景観保全訴訟




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