2008年2月1日(金)
稲田教授の著作を
「隠された神話−歴史都市・尾道の謎」
 尾道市が単行本で出版
  景観デザインの視点で地域遺産を
表紙
千光寺から見た向島
 今から6年前の平成14年度の尾道市予算で、
目玉事業の一つとなったのが市職員から募集した
「まちづくりアイデア」。2か年で6つの″事業
採択″をした中の一つ「ヴァーチャル尾道」基本
構想では、尾道大学の稲田全示教授を中心に「尾
道三山と岩屋山(向東)の巨石文化」から古代都
市尾道の謎とロマンに迫ったが、6年間のフィー
ルドワークの成果として「景観デザインから尾道
の地域遺産を見直す」ことを新たな切り口に31日、
尾道市は「隠された神話−歴史都市・尾道」を刊
行した。
 「隠された神話」はA5版、230ページ。編
集執筆が美術学科の稲田全示教授で、編集・デザ
イン・写真・イラストレーションが同大学院生の
西川真理子さんと野崎千尋さん。定価1575円で発
行が尾道市。啓文社、花本書店、おのみち歴史博
物館で2日から販売する。
 尾道市史とか記念誌、尾道文化などの刊行物を
自治体が刊行する例はあるが、俗にいう「新刊
(単行)本」のスタイルの書を行政が発行する例
は稀といえる。
 「編集後記」は稲田教授、発行に寄せては尾道
出身の彫刻家児玉康兵氏と美術学科の田村禎英講
師が寄せているが、「発刊のことぱ」は平谷市長
名(別掲)になっている。
 所管の世界遺産推進課では、発行に至った経緯
を次のように述べている。
 「ヴァーチャル尾道」制作に関わった尾道大学
稲田教授は、その後も巨石の調査・研究を進めて
おり、調査がかなり進み、広くお知らせできる状
況になったので書籍を発行することにした。
 景観デザインという新たな視点から尾道の地域
遺産を見ることを通して、尾道というまちへの興
味を促すとともに、地域の宝物である文化遺産を
大切にする心を育てることにもつながるものであ
る。
 本書の発行により、雑誌や観光パンフレットな
どで紹介されている場所とは一味違った、隠れた
尾道の魅力の発見にもつながる。
 執筆にあたっては、カラー写真をふんだんに使
うなど見て楽しめる読み物にした。

きっかけ 美術館の「龍の國・尾道」
 児玉氏と黄永融工学博士「陰陽思想説」

 さて、肝心の本書の内容だが、序章が「尾道三
山に隠された謎を探る」で、児玉康兵氏と黄永融
工学博士(台湾、大阪大工学部客員教授)の「陰
陽思想説」を、市立美術館開館20周年記念展「龍
の國・尾道」展の図録などを辿りながら紹介する
ところから始まる。
 第一章は「尾道四山フィールドワーク」。(1)が
岩屋山、(2)が浄土寺山、(3)が西國寺山、(4)が千
光寺山のそれぞれのフィールドワーク。現在ある
尾道三山と寺に、現在からの視点(創建時に遡る)
で迫るという「今日的手法」(当たり前のこと)
ではなく、それぞれが生まれる過去(古代)から
迫っているのが最大の特徴。
 尾道散策の新しいページ、切り口を拓いたとの
評価を本紙はしている。理由はもちろん「労作」
であるから。
 第二章が「太陽の運行と尾道」。ここでは、数
年前に本紙が何度も報道した「冬至の日」の太陽
運行の謎を、数多くの写真入り(掲載)でリアル
に表現している。
 第三章が「隠された古代信仰のかたち」で、
「第二章からが″本題″ですから..」と稲田教授
が力を入れている。最終章が「山・岩・太陽」。
 尾道はもちろん、向島に住んでいる人も「岩屋
山」の不思議についての認識(本書の内容を指す)
は、ほとんどないのが現状。小さい頃からの遊び
場や祭りの場であった向東町内の住民には存在意
識はあるが、「岩屋山の不思議(その形からも)
について、逆に関心が高いのが因島、瀬戸田の住
民」といえるのではないだろうか。
 旧尾道大橋を通行している際、脇見運転をしな
い限り岩屋山が目に触れることはないが、「しま
なみ海道」を通って新尾道大橋に向かう車両は、
運転中に眼前に岩屋山の奇形が目の前に迫ってく
る。両島の住民から合併前後「あの変わった岩は
なんですか?」という質問をよく受けた経過があ
った。

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「隠された神話」発刊にあたって

 山陽路有数の文化財の宝庫と言われる尾道..。
尾道水道沿いに細長く伸びる市街地には、商港都
の繁栄を物語る歴史的建造物が数多く残り、文化
の香り高い雰囲気を醸し出している。そして市街
地の背後には、大宝山、愛宕山、瑠璃山の尾道三
山が周囲の自然景観と調和した美しい歴史的風土
をつくりだす。このように、尾道の歴史地区(旧
市街地)には、国宝や重要文化財を数多く有する名
刹が落ち着いた佇まいを見せ、旅情を誘う。
 尾道の町並みは、重要伝統的建造物群保存地区
のような、つくられ、整然とした町並みではなく、
人々の暮らしが息づく「生きた町並み」である。そ
こに全国の人々は安らぎを覚え、何かを感じるの
である。
 そうした歴史地区にある三山を代表する三つの
寺院(千光寺、西國寺、浄土寺)が、対岸の向島に
ある岩屋山に向けて建てられている。そればかり
か、かなりの数の寺院が岩屋山に向けて建てられ
ているのは、一つの驚きである。
 本書にもあるが、三山には地元住民の誰もが知
っている巨石がある。大宝山の玉の岩、愛宕山の
タンク岩、瑠璃山の不動岩である。そして向島の
岩星山にも巨石があり、本書を読むにしたがって
少しずつ謎が明らかにされる。巨石が意味するも
のを解明することは、太古に思いをはせる歴史ロ
マンである。巨石の存在が、瀬戸内の歴史都市・
尾道にいっそうの厚みを加える。
 本書片手に現地を訪ね、歴史の不思議を体感し、
尾道の古代ロマンに夢をはせていただければ幸い
である。本書は、フィールドワークの賜物であり、
著者をはじめご協力くださった寺院ほか関係各位
に心より感謝申し上げたい。
             尾道市長 平谷祐宏



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