2006年9月23日(土)
ここでも尾道の誇り
出版だけで50年の歴史を刻む第一人者
 天野安治著「大正切手」
  専門誌「日専」を読み解くシリーズ
「大正切手」表紙
切手と郵便に見る1945年原爆被害で「罹災戻」印の押された封筒
 郵便の歴史と切手収集の権威者であり、尾道市
文化財保護委員の天野安治さん(74)がこのほど、
日本郵趣出版から「大正切手」(222ページ、
本体価格2381円)を上梓した。その天野さんは
「戦後60年の節目に日本郵趣協会が創立60周
年記念として『切手と郵便に見る1945年』を
出版しているが、全国的にもヒロシマでもこれが
ほとんど知られていないのが残念」と話している。

 「大正切手」は「日専」を読み解くシリーズの
1冊。「日専」とは、切手収集の専門家やマニア
向けに日本郵趣協会が年に1回改訂版を発行して
いる「日本切手専門カタログ」書。800ページ
の中に日本の切手の全てがぎっしり詰め込んであ
り、この中から自分の興味、関心がある分野で、
より分かりやすく、より詳しく知りたい収集家や
その卵に向け、「日専」を読み解くシリーズが各
分野の第一人者によって出版されている。
 天野さんは「菊」切手の専門家として多くの研
究出版があるが、「田沢型」、「富士鹿」、「風
景」に代表される「大正切手」の第一人者でもあ
る。
 「日専2006」では、明治4年から昭和23
年までを時系列に105ページを割いているが、
この中の「86P〜120P」までに相当する部分
の解説書が今回の「大正切手」という位置づけに
なり、それだけで著者と本書の値打ちが分かろう
というもの。
 ちなみに「日専2006」では、この大正切手
の前が「菊」で、菊が79P〜87Pまで。日専でい
くと天野さんの領域が105分の40という膨大
な範囲・量になること(時系列で)も分かる。
 9月1日発行の専門誌が、日専を読み解くシリ
ーズ第4弾の出版にあたって天野さんの顔写真入
りで「初の本格的入門書が登場」と大きく紹介し
ている。
 「大正切手」のあとがきで天野さんは「田沢型
を中心とする大正切手の収集は、分類が難しいの
で喰わず嫌いの傾向にあるが、こんなにおもしろ
い対象はめったにあるものではなく、独特の大正
ワールドが出現する。このおもしろさを多くの人
に伝えたい」と述べ、後進の育成とその芽生えに
強い期待感を語っていた。
 主著は1956年(50年前)の「二重丸型日付
印詳説」に始まり「日本切手の集め方」(198
0年)や「天野安治コレクション(上)、(下)」
(1981年)など15冊。「菊切手の時代」
(99年)から「切手と郵便に見る1945年」
(06年)まで、近年は毎年のように出版を重ねて
いる。

戦後60年の傑作、貴重品
ヒロシマでも見過ごされたまま

 トップ記事の冒頭と、末尾で紹介した協会創立
60周年記念「切手と郵便に見る1945年」は
330ページの大作。
 外国も含めた43の個人、団体の協力によって
刊行されており、その企画・構成が順に天野安治・
内藤陽介の両氏。両氏がともに「あとがき」を書
いている。
 裏表紙は左が原爆投下直後の広島宛に差し出さ
れたものの、配達不能で差出人戻しになったはが
き。大型の″罹災戻″の印が押されている。
 右は消印が昭和20年8月21日で長崎市城山町宛。
長崎原爆による差出人戻しで、長崎の″罹災返戻″
の印が押されたものは2点しか確認されていない
貴重なもの。
 表紙の「敵国降伏」の4文字入り「勅額10銭切
手」は8月24日に占領軍をはばかり売捌停止に
なり、使用されないまま回収処分された。宮崎県
の特定局で「もったいない」と公衆電話の通話料
金を受領するため、局内で通話分に貼って使用さ
れたものが2例だけ残っているという、いずれも
極めて貴重なもの。
 ドイツのヒトラー政権下の発行物や、占領地か
らの郵便等「歴史の生き証人」が60年の歳月を
超えて雄弁に語りかけてくる資料集・労作。
 「戦後60年の節目に、どうしてこういう視点
からの報道がなかったのでしょうか」と天野さん
に尋ねたところ「協会として広島の原爆資料館な
どに寄贈しなければという声が上がっている」と
話していた。



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