山陽日日新聞ロゴ 2001年9月15日(土)
昔の良さ守る町
 
大林監督 臼杵で元気な声響く
  映画『なごり雪』がクランクイン
臼杵駅前の大林監督
 尾道出身の大林宣彦監督が大分県臼杵市(人口3万5千人)を舞
台にした臼杵映画『なごり雪』のロケーションを開始した。監督に
とって本格的な映画製作は、新尾道三部作の最終作『あの、夏の日
〜とんでろ じいちゃん』以来3年振りで、城下町と江戸末期から
興隆した商家の町並みを残す臼杵、同県竹田市の岡城址などで、来
月10日ごろまで撮影が続けられる。
 クランクインは大安の10日、JR日豊本線上臼杵駅前で始まり、
続いて古寺や現役の古い民家が多く残る町の中心地、「二王座」地
区で行われた。尾道からは尾道大林組のメンバーも駆け付け、新天
地大分での監督の門出をともに祝った。秋の爽やかな風に乗って、
監督の「ヨーイ、スタート」「OK!」という元気な声が路地に響
いている。
 旧市街地はアーケード街を中心に、平地と坂道がのびる山の手か
らなり、その中でも二王座地区は、「二王座歴史の道」と呼ばれ、
狭い路地の両脇に昔ながらの民家に人が住み、石畳や石垣も昔のも
のを壊さず、城下町の面影を守り育てている。平地の路地は尾道同
様にとても狭いが、大きな違いは山の手の坂道にも普通車が入れる
だけの幅があり、下水道も整備され、民家は古い良さをそのまま残
した形でメンテナンスが行き届いて、空き家が全く無いという点。
 大林監督は「毎日住んでいる臼杵の皆さんは、この町の良さに気
付かれてないかも知れないが、人も風土も穏やかで、昔ながらの美
しさや食べ物の味を守り、活かし、伝える知恵と工夫と楽しさが充
ちている。つまり文化がある」と初日現場での記者会見で語ってい
る。
 主演は三浦友和さん、ベンガルさん、オーディション新人の須藤
温子さん(98年全日本国民的美少女コンテストでグランプリ受賞)、
左時枝さん、宝生舞さんら。映画公開は来年春の予定。

  後藤市長 映画を売り物にしない
   「やせ我慢」が評価された−
 大林監督が「日本古来の維持(=メンテナンス)の思想を持って
いる人」と呼ぶ後藤國利・臼杵市長=2期目=は、臼杵映画につい
て、本紙インタビューで次のように語った。
 大林監督に映画『なごり雪』の舞台として臼杵を設定して頂いた
ことは、臼杵市が監督から『町守り大賞』を頂いたようなもので、
とても名誉なこと。ロケの誘致をした訳ではなく、『待ち守り』
『まち残し』という考え方を評価して頂いたのだと思うが、町の風
情は臼杵市民が長い間育て、守ってきた大切な宝に他ならない。こ
れらの宝が評価されての映画製作だろうと思う。
 待つことも残すことも、強い意志が必要。時流に流されず、派手
な生活に染まることなく、町を継承していくことは容易ではない。
痩せ我慢を張りながら、じっと耐えて来た町作りが評価されたと言
える。商業の立地条件が悪化していく中では、痩せ我慢しか出来な
かったという一面もありますが・・・。
 今年12月末には、東九州自動車道が開通し、これに映画の完成
などが重なりますので、観光客が増えない筈がない。事実、大林監
督が選び撮影した町は、どこでも観光客が大幅に増えていると聞く。
 これまでは、待つことも残すことも、それほど難しいことではな
かったかも知れない。これからは、お客様が増えて、痩せ我慢しな
くてよくなった時に、町がどうなるかが問題。町が壊されていくの
ではないか、という心配がある。
 今回の映画撮影は、臼杵市にとってラッキーなビッグプレゼント
です。宝くじに当たったような事態です。もし宝くじに当たっても、
平常心を失うことなく生活リズムが変化してない人と同じように、
映画の舞台になっても、これまで通りのリズムを変えない町であり
たい。いや、改めて臼杵の価値が認められ、映画で紹介されたから
こそ、貴重な心を守り続けたい。
 臼杵は古い町。この雰囲気がさらに評価されることになるだろう
が、評価されたからと言って、それを売り物にして慌ただしく仰々
しい町にしてはならない宿命を持っている。


ニュース・メニューへ戻る