山陽日日新聞ロゴ 2001年8月5日(日)
直木賞作家
 阿刀田高の「続ものがたり風土記」で
  文学の町尾道を20頁も
   全国区でデビュー「三ツ首さまと三人の義賊」
「続ものがたり風土記」表紙
 直木賞作家で吉川英治文学賞の阿刀田高著の「続ものがたり風土
記」(集英社、定価1890円)で、文学のまち尾道が20ページにわ
たって登場している。明治・大正・昭和の名作文学と作家の地を訪
ねてのシリーズ。民話・伝承の探索も主題となっており、「三ツ首
さまと三人の義賊」が全国区で初めて紹介されている。
 283ページの「第11章 海道の街−広島 I」で尾道が登場す
る。その小見出しは「尾道の千光寺−志賀直哉と尾道−<暗夜行路>
のあらすじ−豊年だ!豊年だ!−三ツ首さまと三人の義賊−林芙美
子と尾道−オイチニの薬−瀬戸内しまなみ海道−村上水軍の痕跡−
美しい島、美しい海」。
 文学のまち尾道編は、文学のこみちから始まる。「のどかさや小
山つづきに塔二つ」正岡子規など石に刻まれた詩歌を紹介しながら、
尾道と文学の深い関わりを説明し、三軒長屋の志賀直哉旧居にたど
り着く。
 志賀作品では、「暗夜行路」のほか、尾道時代の作品として、
「清兵衛と瓢箪」、「児を盗む話」の2編を"尾道作品"と紹介。当
時の志賀直哉の心に迫っている。
 後述の林芙美子の「放浪記」同様に、志賀の「暗夜行路」もどう
いう小説なのか?、なかなか説明できないもどかしさ(地元的に)
があるが、筆者は「暗夜行路」とは?を端的に説明していて見事。
 さらに、名文家の誉れが高い志賀の筆致を抜粋して紹介している
のも尾道人としては嬉しい。
 文学のこみちを降りる筆者の足が海福寺に向かう。ここで「三ツ
首さま・・」が登場。田舎芝居の台本にはなりそうです。よい台詞
が5つ6つあって、泣かせどころが2つくらいあれば、田舎から都
へのぼるさと結んでいる。
 続いて、芙美子の登場。ここでも尾道との関わりで言えば、短編
小説「風琴と魚の町」がこの地の文学であり、往事の生活を鮮やか
に切り出している、と述べている。
 尾道市立図書館創立80周年記念「尾道と林芙美子」を引用、芙
美子親子が初めて尾道に降り立った時の話で「研究科の視点は鋭い」
などこの労作を高く評価している。
 さらに「オイチニの薬」についての記述が相当あって、アンティ
ーク茶房芙美子や芙美子像が出てくる。
 尾道編の結びでは、浄土寺と西国寺の簡単なスケッチで終わって
いる。
 「美しい島、美しい海、このあたりの自然は、あまり人工の手を
加えず、ひっそりと、やさしく生き続けてほしい、と願わずにはい
られない」と阿刀田氏が結んでいるのが印象的だ。


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