山陽日日新聞社ロゴ 2012年12月28日(金)
新日本風土記
尾道編がNHK・BSで2月に全国放送
 常称寺文書に見る「平等」
  尾道学顧問の荒木正見氏も取材に合流
「平等」という文字が記された文書
取材風景
 NHKの番組の中でも、より深みのある切り口
で綴られる紀行番組「新日本風土記」(昨年4月
よりBSプレミアムで放送開始・全国放送)の来
春2月1日放送回で、全編尾道が登場する。長期
に亘って尾道各所で取材を続ける制作班が25日午
後、西久保町の時宗常称寺(川崎誠住職)を訪ね、
同寺所蔵の【常称寺文書】にカメラが向けられた。
                [林 良司]

 「新日本風土記」の番組要旨は次の通り。

 『日本人なら誰もが持っている懐かしい風景。
長い歴史の中で培ってきた豊かな文化。来たる年
の豊作や大漁を願って、神に祈りを捧げてきた日
本人。それぞれの土地に根づく風習・自然・建築・
工芸・食文化などを丹念にたどっていくと、日本
人が長年かけていかに深い文化を築いてきたかを
実感することができます。「新日本風土記」は、
日本各地に残された美しい風土や祭り、暮らしや
人々の営みを描く本格的な紀行ドキュメント番組
です』。

 番組は、短編小説を集めたようなオムニバス形
式で綴られ、未来への「映像遺産」として記録保
存することを目的とした、かなり硬派な番組。
 制作はNHK本体ながら、今回のように地方の
地方局が制作を担い、尾道編はNHK広島放送局、
実質の制作はNHKプラネット中国支社が担当す
る。
 尾道編のテーマは、「尾道・港と坂が織りなす
町」(仮)で、「高齢化や利便性を求めて町を離
れる人がいる一方で、独特の古い町並みに惹きつ
けられて移住してくる若者も少なくない。今も多
くの人々を魅了する尾道の魅力とは何なのか。尾
道の路地を辿り、そこから見える風景から、この
町に暮らす人々の様々な姿を、様々な視点の映像
クリップで描いていく」との企画要旨。
 今春より尾道入りした制作班は、桜舞う春の尾
道から始まり、路地の風景、水祭りに祇園祭、吉
和浦、古寺と山手の町並みなど、広範囲に下調べ
及び取材を重ねて来た。
 この内、祇園祭・三体みこしの取材の中で、新
開の路地空間を神輿が練り進む光景に目を留め、
そこから江戸時代の昔も、この花街に神輿が入っ
ていたことを古文書の内に拾い出す。
 尾道学研究会の半田堅二さんが解読した【常称
寺文書】(江戸時代〜明治にかけての寺の記録々
書)の内、鉄外(てつがい)なる当時の住職から
町年寄に宛てて出された要請文に、「花街で生活
する遊女達は、他国者故に祇園祭に繰り出し、三
体神輿を見物することが叶わない。そこで遊女町
にも神輿を担ぎ入れて欲しい」というのが要点で、
そこにはこの時代には極めて珍しい「平等」とい
う文言も見える。
 このエピソードに制作班は大きく着目し、現在
の新開への神輿練りとオーバーラップさせる形で、
番組中の一つの要所として登場させることになっ
たもの(現在の新開への巡幸は、通常のルートの
内として実施されている)。
 常称寺へは、NHKプラネットからディレクタ
ーの多田義彦さんと撮影クルー、解読を担当した
半田さん、尾道学研究会会長の天野安治さん、当
日偶々尾道へ立ち寄った尾道学研究会顧問の荒木
正見さんが入り、文書原本とそこに書かれた内容、
更にはその背景となるものが、半田さん、天野さ
ん、荒木さんからそれぞれ紹介・解説された。
 とりわけ飛び入りで取材に合流した荒木さんは、
初めて目にする内容ながら、同エピソードに対す
る歴史的、思想的(哲学を専攻)観点からの見解
を、的確且つ高度に解き明かし、これには質問す
る制作班スタッフを唸らせていた。
 天野さんも、「今日言う平等とは、意味合い・
用例において多少のズレはあるかもしれないが、
しかし、封建制社会の中にあっては画期的な文言
でありつ注目に値する」と、目を見張っていた。
 因みにディレクターの多田さんは尾道(土堂)
出身で、10年ほど前に尾道を舞台に自主映画2作
品を監督・制作したあの多田さん。
 制作班は来月まで尾道で取材を続け、その成果
は2月1日放送の番組で、全国に向けて発信され
る。番組の詳細は追って報道します。
【写真】=上…「平等」という文字が記された文
書▽下:取材に応じる左から半田さん、荒木さん、
天野さん。



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