山陽日日新聞社ロゴ 2012年10月26日(金)
映画『ふたり』
27日、今年も「千津子」命日近付く
 尾道の物語性架空と現実が混在
  東久保町 吉田邸前は今も供物が
「ふたり」撮影風景
 今年も「命日」の10月27日がやってくる−。命
日と言っても実在した人物ではない、映画の登場
人物が亡くなった日である。大林宣彦監督が古里
尾道を舞台に少女の成長と家族愛を描いた赤川次
郎原作の『ふたり』。ファンタジックなストーリ
ーに、尾道の山の手の日常風景がとけ込み、尾道
映画の中でも特に人気があり、20年以上経った今
でも旅人をロケ地に誘っている。そして毎年命日
が近付くと、あるロケ地に花や線香が手向けられ
る。               [幾野伝]
 映画『ふたり』は1991年、NHKテレビでドラ
マ放送された後、155分のロングバージョンが
劇場で公開された。『転校生』などの尾道三部作
に続く新・尾道三部作と呼ばれる作品で、DVD
の販売数からみても大林監督の作品群の中で一番
人気がある。
 姉の「千津子」(中嶋朋子)と妹の「美加」
(石田ひかり)を中心にストーリーが展開し、家
族愛の表裏に翻弄されながらも、姉や友情に助け
られ心が成長していく妹の姿を描いた。
 映画の冒頭で、姉の千津子がトラックに挟まれ
事故で亡くなってしまい、その「命日」が劇中で
「10月27日」と刻まれていることから、秋の時分
に改めてロケ地を訪ね歩くファンが増えるとも言
われる。かつてはこの日に合わせて全国からファ
ンが集まり、「千津子忌」が開かれたこともある
ほど。
 そのトラック事故の撮影は東久保町、吉田宅前
の狭い坂道と時宗海徳寺への小道を使い4日間か
けて行われ(=写真)、映画のオープニングとラ
ストでこの場所が少女の成長の証しとして象徴的
に登場することから、ロケ地巡りの「聖地」にな
っている。
 今でも日頃から、吉田邸の玄関前には熱烈なフ
ァンにより生花や線香、賽銭などの供え物が置か
れていることがあり、旧市街地に散在する大林監
督の尾道映画のロケ地の中でも神秘さが際立つ特
異な空間になっている。
 地域健康文化学研究所所長で尾道学研究会顧問、
荒木正見さんは著書『尾道学と映画フィールドワ
ーク』で、「この場所は、実は浄土寺の背後にそ
びえる浄土寺山の山域と住宅地との境界にあたる。
海徳寺によって象徴されるような聖域と人間界の
境―」と分析。
 さらに『尾道を映画で歩く−映像と風景の場所
論』の中でも、「現実の人であろうと、架空の人
物であろうと、忘れられない思い出を与えてくれ
た故人に対する感謝の気持ちは平等である−」と、
映画の中での出来事であるにも関わらず長年のフ
ァンがここを繰り返し訪れ、手を合わせる姿を肯
定的に論考している。
 大林監督の『転校生』(1982年)が公開された
のを契機に、若者が次々と尾道を訪れロケ地を歩
きを始めたが、その9年後の『ふたり』は尾道が
「架空と現実」が混在する不思議な町空間である、
との印象を決定付けた映画であったと言える。



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