2012年9月6日(木) 森岡久元さん 離れて半世紀尾道への望郷の念 小説短編集『尾道物語 旅愁編』を |
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幼少期から高校卒業まで尾道で過ごした小説家、 森岡久元さん(71)が11冊目となる短編集『尾道 物語旅愁篇』を澪標(大阪市)から発刊した。こ れまで古里尾道を舞台に紡いできた純情篇、幻想 篇、姉妹編に次ぐ「尾道物語」シリーズで、「古 里を出て50年以上経つが、今も心惹かれる町であ り、何かいつも尾道から旅をしている気分。その 心情を書き表してみました」と話している。 [幾野伝] 森岡さんは母親の古里尾道に4歳から暮らし、 久保小から土堂小、長江中、尾道商業高校に学ん だ。在学当時、活発だった文芸部の同人誌に小説 を載せたのが始まり。関西学院大学に進み、同人 誌「姫路文学」に参画、熱心に創作したが卒業と 同時に就職、その後起業し経営者になったことか ら、長年筆を休めていた。 休刊していた「姫路文学」が20年近く前に復刊 したことを契機に、書くことへの情熱が再び湧き 上がり、コンピュータ関連部品の販売会社のトッ プを務めながら執筆し、同人誌への寄稿を続けて きた。 江戸・天明期を代表する文人、大田南畝(おお た・なんぽ)の生き様を追う一方で、尾道での少 年から青年期の体験、思い出をもとに書いた『尾 道渡船場かいわい』が2000年の第7回神戸ナビー ル文学賞を受賞。その後も、『ビリヤードわくわ く亭』や『尾道物語・純情篇』、『サンカンペン の壷』、『尾道物語・幻想篇』、『恋ヶ窪』、 『十八歳の旅日記』と1、2年に1冊づつコンス タントに生み出している。 数年前に会社経営から退き、現在は執筆業に専 念し、「姫路文学」と「別冊関学文芸」、「酪酎 船」の各同人として作品を発表。半生記について 今年6月には尾道市立大学で特別講義をした。 「人生というドラマの深淵を探る珠玉の短篇集」 と紹介されている新刊『尾道物語旅愁篇』は、 「三原まで」▽「父の紀行『二月の岬』」▽「あ びこ物語」▽「隠れ里の記」▽「富士見橋の理髪 店」▽「尾道のラーメン」の短篇6作品を収めた。 いずれも2005年から今年春にかけて、各同人誌で 初出ししたもの。 『二月の旅』は、病死した父親が45年前の二十 歳の時に体験した四国周遊と、その旅で出合った 女達との交友を中心に書き残していた日記風の紀 行文を、現在の息子が読んでその足跡を訪ね歩く 話。 帯には「二月の岬」に寄せて、と関西学院大学 名誉教授で詩人の山田武雄さんが「感傷を描きな がら、これは作者の感傷ではなく、文中の父の若 いときの思いであるという、第三者の視点から描 いているかのようにして、巧みに読者を思いっき り『やるせなく』感じさせます。効果的にちりば められた方言が、この思いとともに、読者をして 若かった自分を振り返らせます。その背後に作者 の感傷がたたずんでいるのです。内容、構成、文 章ともに卓抜した優れた短篇です」と書いている。 「尾道のラーメン」は、尾道・朱華園をめぐる 少年期の記憶から現在へと通じる、小説というよ りは作者の個人エッセイの色彩が強い。処女作 「花筺」から全ての作品を読んで好きだという檀 一雄が朱華園を「おそれ入った」と絶賛したこと を紹介しながら、その変わらない味を変わらない 古里尾道への思いと重ねて綴っている。 あとがきで森岡さんは、「私の郷里は尾道です。 郷里を離れていつしか五十年になりました。郷里 を離れて暮らすものには、心のどこかに望郷の念 があるものです。そして、都会に半世紀も定住し ながら、かすかな旅愁に心がつねに晒されている もののようです。どれだけの時が経ようとも、郷 里を離れたものは、旅人だからでしょう。 ・・・・人はこの世に生まれ落ちたからには、所 詮旅人で、どこで生まれて、どこで暮らそうとも、 旅愁はついてまわるものでしょう」と記している。 |