2010年10月3日(日)
NHK毛利和雄さん
 男女の交友 心の移ろい古希ゆえ書けた
  新著から「森岡文学」読み説く  
表紙
 森岡久元さん著『十八歳の旅日記』(澪標)を
読んでの感想と推薦文が、早速著者のもとに届い
た。その主は尾道出身のNHK解説委員、毛利和
雄さん。森岡さんの作家としての成長と心の変容
にまで触れており、その全文を紹介してみます。
写真は森岡さんの尾道シリーズ作。 [幾野伝]

 これを何かの因縁といわずして、どう表現すれ
ばいいのでしょうか。平泉に世界遺産の取材で出
かけ、盛岡によって自宅に帰ってきたら、森岡久
元さんの『十八歳の旅日記』が送られてきていま
した。せっかく盛岡に来たのだからと不来方城
(こずかたじょう・盛岡城)址を再び訪ね、石川
啄木の短歌の石碑を目にしてきたところでした。
−不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十
五の心−
 授業をさぼって城址にあそび、文学書や哲学書
を読み漁ったという啄木の多感な青春がしのぱれ
ます。
 二年前に盛岡にでかけ、啄木の石碑に最初に接
した頃に、森岡さんの『尾道渡船場かいわい』と
『尾道物語・純情編』にたまたま出会ったのを思
い出しました。両著とも自伝小説でしょうか、前
著では高校生から大学生時代の恋愛と、学校生活
や家族関係が描かれています。五〇歳代の著者が
青春時代を描いた、みずみずしい感性をうらやま
しくも思い感心したものでした。
 今回の『十八歳の旅日記』は、頼久太郎(頼山
陽の本名)の若き日の旅日記を読み解こうとする
旅行作家、倉本美都子と小説家小瀬戸との交友を
通じて、漢学者として著名な頼山陽の若き日の素
行が明かされていきます。
 久太郎は、十八歳の時に一年間江戸に遊学しま
すが、広島を出て竹原、尾道、神辺を経て江戸に
至る旅日記には久太郎の気質的な病と性的な素行
とが隠されているのです。その日記は明治時代に
書き写されたものですが、日記の余白に書き込ま
れたとされる記述も別途書き写されており、その
記録が事実とすれば頼山陽の若き日の空白を埋め
る重要な内容が明らかになるのです。
 この久太郎の気質的な病と性的な素行をめぐる
倉本美都子と小瀬戸との探索は、推理小説的な内
容でもありますので、種明かしは避けます。自ら
森岡さんの本を読んでもらいたいと思います。
 頼山陽の若き日の件はこれくらいにして、森岡
さんの小説のもう一つの柱は、倉本美都子と小瀬
戸との交友です。作中では倉本美都子は七〇過ぎ
とされ、雑誌社勤務を経て、全国の観光地や名所、
旧跡などを取材して雑誌に記事を書いている作家
とされます。
 一方の小瀬戸は、文芸、映画、歴史をテーマに
した勉強会で講師を務め、大田南畝の狂歌につい
て話したこともあり、還暦という設定ですので森
岡さん本人がモデルになっているのでしょう。勉
強会を通じて二人は知り合い、頼久太郎の若き日
の謎について探索を重ねていきます。
 お互いに成熟し、文筆に携わるふたりの交友は、
午前零時頃、美都子が小瀬戸に電話してきて、寝
酒を口にしながら頼久太郎について話し合うよう
になります。その交友も、久太郎の旅日記の謎に
迫る探訪に竹原や尾道に出かける計画が進む中で、
美都子が病に倒れ終焉を迎えることになるのです。
 森岡さんは、今年古希を迎えられるそうですの
で、新著『十八歳の旅日記』は、前著『尾道渡船
場かいわい』と『尾道物語・純情編』から十数年
を重ねての著作ということになるのでしょう。
 五〇歳代の著者は、みずみずしい感性で青春時
代を描かれ、今回は自らの成熟をもとに、だれも
が経験することかもしれない荒々しい感情が襲っ
てくる青春時代と、成熟した男女の交友の心の移
ろいを重ね合わせて描く作品が生まれました。
 高齢化社会を迎えて、美しく齢を重ねることを
課題としている世代も多い中、森岡さんの新著は
味読に値するものとお勧めする次第です。

ISBN978-4860781699



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