2009年6月7日(日)
尾道をゆく
 デンギ坂からレンガ坂
  尾道学研究会 林 良司
現在のレンガ坂
 土居咲吾の墓所を出れば、目の前に″レンガ坂
″の長く急な坂が延びる。レンガ坂、文字にする
と「蓮花」(或いは蓮華)と表記しているが、い
つからこの坂をレンガ坂と呼ぶのだろうか。遡っ
て見た時、実はこのレンガという呼称、歴史的に
はそんなに古い話ではないらしい。
 「私が古い代から伝え聞いているのは、レンガ
ではなく″デンギ坂″です..」
 江戸時代の旅龍に始まる、防地通りの老舗商家・
村上肇商店のご主人・村上肇さんの伝え聞いてい
るところでは、レンガ坂の旧名は″デンギ坂″で
あったという。
 古地図にその名を探して見ると、江戸期の町絵
図(文政4年)には見えぬが、明治後期から大正、
昭和20年代後半にかけての各市街図の地名に「で
ん木坂」(注)とあり、坂の名称であると同時に、
周辺の小字名にもなっていた事が分かる(因みに
昭和30年になると、この字名は地図上から消えて
いる)。
 村上さん曰く、デンギとは杖の事で、杖をつか
なければ容易に上れない坂として、デンギ坂と呼
ばれるようになったのだそうだ。デンギ坂即ち
「杖(が要る)坂」−なるほど、いわれてみれば
そう言いたくなるような勾配のきつい坂である。
 デンギとは、一方で「スリコ木」の事でもある
と、併せて村上さんに教えて頂いた。スリコ木の
事を方言でデンギと言うそうで、これは瀬戸内海
地方の方言の内に確認される。その方言中には別
に「レンギ」という呼称もある様で、レンギ坂に
なるとレンガ坂へより近づいて来る。
 本題からやや脱線するが、津の国屋小路(本通
り本局前の三阪商店西側)と荒神堂・西橋町小路
の間に「レンギ屋小路」という今一つ小路があっ
た。その地名由来には、やはり「スリコギ屋」と
いう屋号を持つ商家の存在があったらしい。
 デンギ坂或いはレンギ坂がどんどん訛っていっ
て、今日のレンガ坂へと行き着いたと見るのが自
然なのだろう。誂りによる地名変化は多々あり、
長江の艮神社と天寧寺の間に位置する「中の段」
という字名も、地元では「ナカンダ」と誂って呼
ぶ例を聞く。
 レンガ坂の旧地名復元において、本シリーズNo.
6で提起した「歴史的旧地名の再生」に改めて思
いが至る。
 その土地の歴史を背負った大小の古地名の発掘
及び記録保存、そして伝承も、尾道学として取り
組むべき課題であろう。具体的には、「築出町復
元マップ」に続く各町内の町並み再現と同時に、
失われた・失われゆく古地名を記載した尾道町
(旧市街)マップを是非とも作ってみたい(デジ
タルで作られた最近の地図ではなく、そこはこだ
わって復刻したかの様なアナログ的な体裁で・・)。
 ※お話をお伺いした村上肇商店では、その他に
も尾道学の俎上に上がる貴重な資料が掘り起され
ましたので、後日改めて本紙でご紹介します。

転載者注「でん木坂」の「でん」はこの新聞上漢字が空白で不明



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