2008年7月9日(水)
 「木造船大工」一筋60年
  進水式で安堵と至福の表情
渡辺さんと船
【昨報の続き】◎..当然と言えば当然であるが、
「狂い」は全く無かった。現役の船大工、渡辺忠
一さん(75)によって6分の1スケールで再建さ
れた「呼子丸」(だいふく→三高丸→呼子丸)。
4年前に竣工していたが、安住の地が定まらない
などの理由もあって、進水式が挙げられてなかっ
た。
◎..船体は見える表面だけではなく、骨格となる
船底の「肋骨」など目に触れない部分も全て実物
どおりの形態で、材料も檜や杉を使って、半世紀
前に自ら棟梁で造船したままを再現した。「船大
工が手掛けた本物の船だから、まさか傾いたり沈
んだりということはない−」と頭では考えていて
も、着水してうまくバランスが取れるまではドキ
ドキし、小さい波を受けても無事安定しているこ
とが確認でき、参加者一同胸を撫で下ろした。
◎..渡辺さん(=写真)は木造船一筋60年である。
高度経済成長で、瀬戸内でも多くの木造船が鉄鋼
製や強化プラスチック製に代わっていく中、「あ
んたも鉄に代わりゃーええのに、儲かるでー」と
何度も誘いを受けたという。それでも頑に木造船、
釣り船型の和船を造り続けてきた。これまでに作
った船は400隻近いと言う。
◎..最近では、「水軍伝令船」など民俗資料とし
ての和船の建造依頼も多い。特に「呼子丸」以降、
その職人技がより多くの人に知れることになった。
現在は、大手造船メーカーの今治造船(檜垣幸人
社長)が発注した機帆船を再建中。40、50年前ま
で瀬戸内海で活躍していた木造貨物船を13分の1
スケールで呼子丸と同様に細部まで再現している。
同社による造船博物館の目玉(中心的)資料とし
て、今秋にも展示されることになりそう。
◎..何度となく造船所を訪ね、渡辺さんの仕事ぶ
りを横から見させてもらった。工房でひとりノミ
やカンナを手にする姿は寡黙で、まさに職人であ
る。進水式で「船魂」を込め、穏やかな波間に無
事浮かんだ時に見せた嬉しそうな笑顔は、この狭
い鼻栗瀬戸で何百回と繰り返してきたであろう安
堵と至福の表情であった。
◎..時間を掛けた、本当の物作りの大切さを教え
てもらった6年間だった。      [幾野伝]



ニュース・メニューへ戻る