2008年6月29日(日)
遺稿が日の目を見る
故村上隆夫さんが15年かけ、まとめた労作
 村上製塩の歴史を紐解く
  古代から現代までを図解入りで
村上さん表紙
 ライフワークとして15年にわたり故郷の製塩の
歴史を研究、平成14年、81才で死去した向島町、
村上隆夫さんの労作「備後向島塩浜風土記」が遺
族によって出版された。瀬戸内海の歴史に詳しい
歴史学者、故網野善彦氏も注目した著作で来月上
旬、啓文社で発売する。
 戦争のため世界史上、例をみない「少年移民」
といわれた満蒙義勇軍に参加した村上さんは戦後、
技術工として横浜造船所に勤めたあと、昭和52年、
故郷の向島町に帰ってきた。三原の幸陽船渠に勤
める傍ら、製塩の歴史を研究、佐伯家をはじめ島
内のかっての塩田所有者を一軒一軒、妻のスズ子
さん(81)さんとともに聴き取り取材、塩田に関
する古文書を読み解き、15年もの歳月をかけ平成
10年、全3冊、720ページもの手書きの労作
「備後向島塩浜風土記」を書き上げた。
 村上さんは「荷車の歌」の作家、山代巴さんと
は昵懇で山代さんと交流のあった独自の網野史観
を打ち立てた故網野善彦氏から村上さんの労作を
読ませて欲しいとの依頼があったが、まだ正式に
出版していないので断ったとの逸話もあり、歴史
学会からも注目されていた。
 そうした経緯もあり、今年が村上さんの7回忌
で妻、スズ子さんが取材でお世話になった方々へ
のお礼と夫の供養のため出版を思い立った。また
昨年、尾道商議所で開催した従兄弟で郷土カメラ
マン、土本寿美さん(82)の「尾道と塩田展」も
出版の動機になり、労作の塩田史を眠らせておく
のはもったいないと刊行に漕ぎ着けた。
 村上さん自身が関わった向島町宇立、縄文時代
の石斧の発掘調査から始まり、古代の土器による
塩焚きや中世の製塩作業、地名の由来などを紹介。
最も製塩が盛んだった江戸時代の塩田の造成や構
図を図面で詳細に表し、入り浜塩田の作り方や
「浜子」と呼ぱれていた塩業労働者の生活にも触
れている。
 村上さん自身が文章に即した図解を書き、中世
時代の歌島の地図、牛に代わっての浜子の浜鋤き
や潮汲み、塩水を煮る窯の構造など描いている。
 土本さんは戦後の塩田風景を撮影した写真を提
供し製本した。
 B5版144ページで100部制作。お世話に
なった浜旦那や国会図書館、県立図書館、市立図
書館に配付するほか1冊3000円プラス消費税で来
月上旬から啓文社で発売する。
 出版に協力した土本さんは「足を使いこつこつ
積み上げた向島の詳しい塩田史が出来上がりまし
た。その成果を知って欲しい」と呼びかけていた。



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