2008年6月22日(日)
鞆の浦訴訟
大きな山場に裁判官が10月現地視察へ
  「百聞は一見に如かず」の意味
鞆の浦で大林宣彦監督と澤村船具店の夫人
◎..県と福山市が計画する鞆の浦の埋立て・架橋
計画に反対する埋立て免許差止め訴訟の7回目の
口頭弁論が広島地裁で開かれ、10月にも裁判官に
よる鞆の浦の現地視察が実現することになったと
いう。「裁判官に、実際に鞆の浦に来て見てもら
えれば、間違いなくその貴重さは分かってもらえ
る−」と当初から原告住民は切望してきただけに、
この視察は裁判終盤の大きな山場になりそうであ
る。
◎..20日付けの毎日新聞によると、今回の意見陳
述で保命酒の鞆酒造社長、岡本純夫さんが「着工
されれば間違いなく観光客は減り、明治創業の家
業の継続が難しくなる」と主張したとある。さら
に昨年1月に亡くなった船具店主の澤村猪兵衛
(いへえ)さんが遺した文章を紹介し、「埋立て・
架橋によって鞆が活性化するという妄想を、今こ
そ勇気を持って捨てるべきだ」と読み上げたと報
じている。
◎..その澤村さんといえば、昨年4月の日曜日、
帰省中にふいの時間ができた大林宣彦監督と2人、
鞆の浦の町を歩いた時のことを思い出した。「も
しかしたら、鞆の景色も見納めになるのかも..」
と居ても立ってもいられない気持ちだったと思う。
突然の訪問、しかもその1週間後に提訴という夕
イミングだったにも関わらず、鞆で豆腐店を営む
「鞆を愛する会」の代表、大井幹雄さん(原告団
長)が駆け付けてくれ、町なかを案内してもらっ
た。夕暮れ近かったが、やはり鞆の美しさを再認
識した。
◎..通りに古い構えの澤村船具店がある。元禄年
間の創業で300年以上の歴史がある老舗には、
変わらずガラスの浮き球やランプ、錨、網、滑車
など船と漁で使う道具が所狭しと並んでいる。主
を亡くした寂しさのなか、久しぶりの思い掛けな
い監督との再会に喜ぶ澤村夫人の笑顔が印象的だ
った(=写真)。「鞆あってこその店−」という
のが亡くなった澤村さんの口ぐせだったと聞くが、
その時に大井さんが「長年の同志だった澤村さん
がいなくなったのは大きい、残念でならない」と
言葉を詰まらせたことを思い出す。
◎..その澤村さんの思いの丈も、同志によって裁
判所に届けられたということだろう。昨年7月初
めの初公判から間もなく1年だが、この間の社会
状況を鑑みただけでも、県と市による埋立て・架
橋計画は余りに時代錯誤であることがますます明
白になっている。原告団事務局長の松居秀子さん
は「当初はあまり時間が割かれないと思われてい
た、原告による意見陳述がこんなに続くことも異
例だと言われており、裁判官が『百聞は一見に如
かず』で現地を見て判断することは重く、将来的
にも大きい意味があると思う」と話している。
                  [幾野伝]



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