2008年5月17日(土)
尾道〜今治の「方言」
3年目を迎えた尾道大学の「尾道学講座」
 境界は伯方島の北と南!?
  架橋無い「弓削・生名・岩城」にむしろ注目
 市立尾道大学(松浦泰次郎学長)の地域総合セ
ンターが主催する第三回尾道学講座が今年も始ま
った。川田一義・同センター長は「平谷市長から
も地域のコア(核)として頑張ってほしいとエー
ルを送られており、地域住民と共に研究し知的財
産を共有するため、尾道学講座をはじめ積極的に
取り組んでいきたい」旨、開会の挨拶の中で述べ、
尾道における同大学の位置づけや、大学における
「尾道学」などの位置づけを3年目を迎えて一層、
明確にしたことが注目される。
 川田センター長は、尾道学講座は6月11日(水)
の第四回で終えるが、その後も市民向けの「教養
講座」を四回開く。また、8〜9月は大学は夏休
みだが、これを返上して美術学科が1週間、会場
は大学内になるが公開講座を予定している。さら
に来年2月ごろ、経済情報学部がコンピューター
(関連)の大学を2日間、予定していると挨拶の
中で述べ、地域との共生・市民に聞かれた大学へ
向けて積極的な姿勢を″初めて″アピールした或
る意味で画期的ともいえる内容だった。
 尾道学講座の今年のテーマは「おのみち今昔」。
14日(水)午後6時半から開いた初回は、灰谷謙
二・芸術文化学部日本文学科准教授が「しまなみ
海道と瀬戸内海方言の東西流通」のタイトルで、
瀬戸内の言葉と文化は東西南北に交流する。しま
なみ海道開通が尾道・今沿線の方言にどう影響し
たか?を検証し、地域の変化と言語の接触・干渉
のあり方などについて、大先輩のこれまでの研究
を受け継ぎながら話した。
 まず、自身について昨年、尾道大に来るまでは
広島生まれの広島育ちだが″山の人間″。現代日
本語の「方言」が専門で、主に瀬戸内海の島をフ
ィールドに、島という特殊性の中で「言葉がどう
動くか?」の研究をしてきたと自己紹介。
 今日の話しは、尾道〜今治ルートで方言の切れ
目がどこになるか?。切れ目は動いているのか?、
それとも消えたり、あるいは片寄るのか?。
 瀬戸内海の方言は、ちょうど潮が両端から満ち
たり引いたりするのと同じように、言葉が関西か
ら下ったり九州から上がったりしており、それが
本土だけでなく南北(軸)に島があり、四国があ
る中で東西の大きな流れをしまなみ海道で切って
俯瞰してみようというのが今回の試み。
 1.方言がどういう分布をしているか▽2.尾道〜
今治ルートを軸に、それを眺めてみると..▽3.軸
によって言葉が変化したかどうかを順に述べてみ
たいと順序立てた。
 そして、本日の命題である「しまなみ海道の開
通によって、方言にどう影響を与えたか」の結論
から先に述べたいIとして、開通後に「よく今治
まで行くようになった人」を尋ね、約50人の聴講
生のうち3人が挙手。「生活者が気楽にはいけな
い」と答えた人が半分を占めた。
 灰谷准教授は、言葉の流通には生活や社会の変
化を伴うものであり、変わっていく側は「良いも
のを受け入れる、憧れの対象」でなけれぱならな
いとし、「尾道〜今治の一体感が出てこないと変
わらない」というのがおおよその結論であると最
初に述べた。
 [本紙注=しまなみ海道はハード中のハード。
一方、言葉はソフト中のソフトといってよい。し
まなみ海道が島の中の生活道となり、商売や食事
休憩、宿泊など人と人との交流を伴うものならい
ざ知らず、島が橋桁となり高速道路が一本通って、
時間が大幅に短縮(便利という)され僅か10年
が経過しただけで、ハードがソフトにどれほどの
影響を与えるか?は灰谷准教授の説明を待つまで
もなく、分かり切った結論といってもよいのでは
なかろうか」。
 ※ただし、道路(交通量の増大)によって大き
な影響を受ける事例もあり、近年、インフルエン
ザは国道2号バイパスに乗って福山方面から尾道
に下ってくるという説がよく聞かれる。

「嘘ばー」から「イモ」まで
 尾道の「ぱー」が今治では「ぎり」に

 ここから、前提としての備後の方言に入り、例
として「ばかり」と「トウモロコシ」の2例を挙
げた。
 「ばかり」(限定)は、広島県内の安芸では
「ばっかり」に対し、備後は「ぱー」で、うそぱ
ーいうとうそばっかりという言い方。
 この「ばっかり」圏は、東西2分型(縦の線)
ではなく、県北の方は「ばっかり」で逆に沿岸部
の方は「ぱー」が侵食しており、言葉が瀬戸内海
側では関西→九州へ、また中国山地側では九州→
関西へという「言葉の流通経路」があると説明し
た(全員納得)。
 この沿岸部の言葉の動きを、しまなみ海道を勧
にみるとどうなるか?では、備後の「ぱー」が途
中「ぱい」に変化し、伊予では「ぎり」になって
いる(注=「ぎり」は尾道でいう「ぱー」と全く
同じつかい方という)。
 「ぱー」と「ぎり」の境界は伯方島〜大島辺り
で、上下にはっきり分かれるが、その中間地点に
「ぱい」が在るという説明。
 この「ぱー」が南北ではっきりと分かれる例で
あるとするなら、尾道〜今治(しまなみ)が逆に
言葉の道になっていたとみられる分布が「松かさ」
を指す「ツングリ」であるという。
 「しまなみ」の西側は、ツングリを「フグリ」
と呼ぴ、東側は本土が「マツカサ」、四国側が
「マツフグリ」で、尾道〜今治のラインが「ツン
グリ」の道で、これは極めて稀であると説明した。
 「ツングリ」とは「マツボックリ(イ)」のこ
とで、講演終了後に質問が出て「尾道では昔、子
どもの頃、ツングリがなまったのか、それとも
「フグリ」と関係があるのか、「チングリ」と言
っていたという意見が出、灰谷准教授が全員に尋
ねたところ、出席者の1〜2人が「ツングリ」、
半数近くが「チングリ」で挙手をした。
 「梅雨」については、ツユは全域に分布してい
るが、本州沿いに広島〜江田島〜能美島まで「ツ
イ」が分布しており、これが言葉の「芸予沖乗り
ルート」。
 もう1つ、四国側に「防予沖乗りルート」があ
り、「トウモロコシ」ではこれが「マンマン」系、
「トトーコ」系、「コーライ」系に分かれ、安芸
では「マンマンキビ」になり「コーライ」とは朝
鮮の意。
 本州側では、西から順にトーキビ〜コーライ〜
ナンバンでしまなみ海道はコーライの真ん中にあ
たる。四国側では、トーキビとコーライの境界よ
りトーキビに入り、尾道〜今治間は本土側が「コ
ーライ」、四国側が「トーキビ」圏に入ると説明
した。
 方言というものは「ゆっくりと、しかしダイナ
ミック」に変わっていき、安芸からは上り、備後
からは下るという右(時計)回りを軸に、広島方
言は軸がドンドン中央を採り入れ、外側に古いも
のを追いやるという流れ(力学)で、これは文化
も同じ。
 「ぶちうまい」は、北九州・山口で、広島は
「ぶち」をつかわない(余りという意か)。
 「いも」とは「さつまいも」のことで、九州で
は「からいも」、「とういも」という。どちらも
「唐」(中国の昔の国名)の意味。広島・山口で
は「りゅうきゅういも」と言い、これが「さつま
いも」になった。
 九州では、唐から伝わったということであり、
これが本州に入ると琉球から伝わったになり、も
っと西へ行くと薩摩から伝わったということにな
ると説明した。

尾道と今治は「アコーナル」
 若者は東京に憧れ、意識に変化も

 次に、梅雨の「ツイ」が 因島、生口島、大三
島にあり、「トカケ」のことを大島では「トカキ」
といい、これは大島だけ。
 「ヒデリアメ」が北から順に「ヒガタリアメ」、
「ヒデリアメ」、「ヒガテリアメ」で、ヒガテリ
アメが大島。「渦(うず)」のことを「ゴー」と
いう方言もある。
 これらの境は大三島・伯方島と大島にあり、こ
れがアクセントになると、尾道は東京式アクセン
トで、今治は京阪式アクセント。伯方島の北は東
京式に近く、同じ島でも南はいくぶん京阪式にな
る。
 これは、帰属意識の差、憧れの対象の違い(差)
ということになり、伯方島では南は愛媛、今治と
いうこと。
 若者のアンケート調査などからも、伯方島は進
学も今治を希望するが、大島・今治の若者は逆に
不完全ながら東京式アクセントの伯方島に近づい
ている。これは憧れ意識の差。
 最後に「発音」で、「赤くなる」は、尾道〜弓
削(下弓削)〜瀬戸田(中野)が「アコーナル」。
大三島(宮浦)〜大島(吉海仁江)が「アコナル」
で、今治は「アコーナル」。
 「青くなる」は尾道〜瀬戸田が「アオーナル」、
大三島〜今治は「アオナル」で、今治は「アオー
ナル」と。「濃くなる」は、尾道〜瀬戸田が「コ
ユーナル」で、大三島〜今治は「コイーナル」と
説明。
 しまなみ海道を1本に考えると、両端が一致し
て中央部が独自の動きをし、また尾道側と今治側
に二分され、さらに愛媛側は宮浦・仁江と今治と
で二分されていると述べた。
 全体でみると、新しい親和・融合が始まってお
り『結果的に境界線は南へ下っている』と述べ、
橋に取り残されたルート(弓削、生名、岩城)と
比べて、どう変化していくか?。取り残されたル
ートが逆に注目されてくるのではないかと述べた。
 「まとめ」として灰谷謙二准教授は1.しまなみ
海道は開通して日が浅く、いまだ「生活道路」に
なりえていない▽2.1960年頃の様子から、今、劇
的に尾道と今治の方言が互いに接近するといった
状況ではない▽3.言葉の変化は急激におこるよう
で案外に保守的。これからの尾道と今治の間の社
会・経済的な一体感次第か?−と結んだ。
 聴講者から質問、意見が出て、伯方島辺りまで
は手漕ぎ舟で行ける、昔の島徊り航路の影響など
が大きいのではないかという補足意見が述べられ
た。



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