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2008年2月2日(土) 森岡久元さん 戦後60余年の記憶胸に 7冊目外国人との親交体験を小説に |
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幼児期から高校卒業まで母親の古里・尾道で過 ごした作家で会社社長の森岡久元さん(67)が新 しい小説集『サンカンペンの壷』を出版社澪標 (大阪市)から上梓した。森岡さんにとって7冊 目となり、今回は自身のビジネスマンとしての体 験をもとにした物語4篇が収められている。 [幾野伝] 森岡さんはこれまでに、幼児期から少年期、青 年期を過ごした、古里ともいえる尾道を舞台にし た『尾道渡船場かいわい』、『ビリヤードわくわ く亭』、『尾道物語・純情篇』の3冊をはじめ江 戸中期の戯作者大田南畝の伝記小説『南畝の恋』 など合わせて6冊を世に送り出している。 「今回は趣きを変えました−」と語るように、 海外に関わりのある作品で構成した。 「サンカンペンの壷」(タイ/ビルマ)▽「コン ゴからのエアメール」(コンゴ)▽「新橋裏道の リリー・マルレーン」(ドイツ)▽「歌のゆくえ」 (中国中山市)の4篇。 いずれも日本人ビジネスマンを主人公にしなが ら、仕事で知り合ったタイ、アフリカのコンゴ、 ドイツ、そして中国人との出合い、親交を軸にス トーりが展開する。各物語のバックポーンにはか つての『戦争体験』があり、不穏な現代社会も見 え隠れする。高度経済成長期を含む『今』に身を 置く主人公は、その戦時に思いを巡らせることで、 より相手の心の中に入っていく。 「新橋裏道のリリー・マルレーン」では、仕事 のパートナーとして出合ったドイツ人技師とのふ れあいのなかで、技師が大戦下で苛烈な戦闘を体 験したことを知る。終盤、技師が東京のシャンソ ンバーで「リリー・マルレーン」を力強く歌い上 げる場面では、作者の平和への願い、叫びが熱い 気持ちとなって迫ってくる。 森岡さんは母親の古里である尾道で4歳から育 ち、小学校は4年生まで久保、その後土堂に転校 し長江中、尾道商業高校に学んだ。当時尾商で活 動が盛んだったという文芸部に所属し同人誌に小 説を書き始めた。 関西学院大学に進学し、在学中に同人誌『姫路 文学』に参画、本格的に創作に取り掛かる。しか し卒業後は企業に就職、1971年に東京で会社を興 して経営者になり忙しさから長年筆を休んでいた。 13年程前に、活動を休止していた『姫路文学』が 復刊すると友人から知らされて、かつての書くこ とへの情熱が沸々とわき上がり、執筆を再開した。 東京中央区にあるコンピュータ関連部品の販売 会社を経営する傍らで、『姫路文学』や関学の卒 業生でつくる『別冊關學文藝』などで執筆してい る。同人誌に発表した「尾道渡船場かいわい」が 2000年、第7回神戸ナビール文学賞を受賞。今回 収めた4篇も、2005年から昨年にかけて『姫路文 学』と『別冊關學文藷』に発表した作品。 「私は幼かったが、尾道は戦時下から戦後、物 がない時代にも他と比べて恵まれていたと思う。 戦後60年以上経ったが、いつかは書きたいと思っ ていた大戦の記憶。自分で意識した訳ではないが、 いずれも戦争体験がテーマになった」と森岡さん。 「尾道作品の執筆も続けており、早ければ秋には 『尾道物語・純情篇』に続く、幻想篇を出したい」 と話している。 |