2007年4月22日(日)
ベッチャー祭り二百周年に寄せて
 ベッチャー面のルーツ
  尾道学研究会 林 良司
ベッチャー面
 尾道が世に誇る奇祭ベッチャーが今年200周
年という節目を迎える。ベッチャー及び神社につ
いては尾道学前夜という時期、本紙の神社シリー
ズで紹介させてもらったので、それを繰り返す事
はしない。そこで今回は祭の花形であり、最も祭
の特徴を表しているベッチャー面について尾道学
で採上げ、二百年奉祝に寄せたいと思う。
 ソバの面は般若の面とよく見間違えられるが、
厳密には「大蛇(オロチ)」の面で(財間先生談)、
ニョロリと鼻先まで長く伸ぱした舌が般若面とは
異なる部分。森信蔵先生の調査報告によれば、面
の裏に「鬼女」の文字が見られたという(現在で
は一字も見えない状況)。嫉妬に燃えた女性が鬼
や蛇の形相になるという諸々の説話からすれば、
鬼の様に角を生やし、蛇の如く舌先を伸ばした女
性の凄まじい形相を表した面と解釈される。
 鬼女面は能狂言から神楽に亘って広く見られ、
大蛇面は主として神楽において使用されるが、当
中国地方では面の形式を採るものよりも全身着ぐ
るみの蛇体の例が多い。
 ショーキー面は天狗そのものであるが、こちら
も厳密には「猿田彦」という神話に登場する神を
模した面で、この神は神話上で先導の役目を担う
事から、神輿渡御の先導・先祓役として全国的に
見られる。面は神楽面に同じであり、当地方に伝
わる備後神楽では「悪魔祓」の演目で登場する。
 三つの面の中で最も独特なものがべ夕であろう。
前の二面が割と見慣れている面であるのに対し、
一体何者であろうか?と思わせる面である。ベッ
チャーの名の起こりが鼻ベチャでベッタリとした
この面から生じている説も聞かれるなど、とりわ
けこのぺ夕が三面の内で核を成す位置付けにあっ
たのではないかと思われる。
 してそのべ夕面の正体とは、狂言で用いられる
「武悪」という鬼の面であり(写真)、『武悪』
という演目もある。べ夕面の裏に辛うじて残る
「悪」という文字を、前の森先生が確認されてい
る(こちらも殆ど消えているが、額部分にうっす
らと悪の下の心の字が見えた)。
 伝え聞くところによれば、大正期まではぺ夕で
はなく「ゴショガー」と呼んでいたという。面を
被っていた者が「御所柿屋平右衛門」であったか
らだそうだが、文字資料上に御所柿屋という名を
確認する事は出来なかった。文政4年(1821)の
尾道町絵図に記された内に、「御所屋八右衛門」
(久保町)という近しいものは見えるが一致する
か否かは分からない。
 一説にべ夕の形相を指して、柿をへしゃがした
様なと表現するものもあり、これに御所屋(が被
っていたと仮定)が混ざり合って生じたという事
も考えられるかもしれない。
 それぞれ面に付されたあの独特な呼び名は、祭
の初期段階では恐らくなかったはずで、面を被る
者をよく知る者(関係者)が戯れに「おいショー
ヤン(ショーキー面を被っていた庄吉)」などと
呼んで囃子たのが一般にも広まり、面を被る者が
別の者に移って以降もそれが面の呼称として定着
したものと想像される。
 ◎既報の通り、5月1〜6日のGW期間中、街
かど文化館(本通り商議所記念館西側)にて、約
50年前に土本寿美さんによって撮影されたベッチ
ャー祭りの写真展(尾道大学田村研究室の企画制
作)が開かれ、会場には面などの祭具も展示され
る予定となっていますので、この機会に間近でじ
っくりと面をご覧になって見て下さい。



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