2006年10月1日(日)
《転校生》私に第二の故郷をくれた映画
 何回行っても飽きない
  <東京発・尾道大好き人間>小野文人
 大林映画「転校生」とのふとした出会いから、
尾道リピーターになり、大の尾道ファンになっ
た小野文人さんが、今夏の『映画「転校生」は
いかにして生まれたか』の連載を読んでこのほ
ど、自らの「転校生」と「尾道」との出会いを
本紙に寄稿した。


「映画《転校生》はいかにして生まれたか」の
連載、楽しく読ませて頂きました。私が尾道に
行くきっかけになった大林監督の《転校生》。
その後の尾道とのお付き合い、交友関係の広が
りを考えると、私の人生に多大な影響をもたら
した作品です。連載を読んで、私も《転校生》
との出会いを振り返ってみました。

◎..出会いは深夜
 私が《転校生》を観たのはテレビの深夜映画
でした。それも観ようと思って待っていたわけ
ではなく、何となくチャンネルを変えていたら
やっていて面白そうだったので観たというだけ。
そういう映画があったことも、大林監督のこと
も知らなかったのです。
 そんな半端な見方をして、どうして「行って
みよう」とまでなったのか。ほかの映画ではそ
んな気持ちになったことが無かったのに、なぜ
《転校生》だけが私を惹きつけたのだろう。そ
れは映画の中のどんな場面だったのか。それを
思い出すべく今回あらためてDVDを観てみま
した。

◎..《転校生》の魅力
 久しぶりに観て、最後まで夢中で観られる密
度の濃さ。男女それぞれの優しさの表現も涙が
出るほどいい。出てくる人みんな演技もうまい
し隙がない。観たあと優しい気分になる。女性
への心ない言葉遣いには気をつけよう・・・。
おっと「どこに惹かれたか」を調べるんだった。
うーん、どこだったのだろう。

◎..何を見たくて尾道行き?
 通学路の細い分かれ道、御袖天満宮の長い階
段、自転車で駈け上がる跨線橋、懐かしい木造
家屋、船で行った瀬戸田港の旅館・・。どこも
確かに好きな風景ですが、当時どこを見たくな
って行ったのだったか。いや、風景だけなら、
それこそ大林監督がロケセットの事で言われる
ように「映画の中だけで」楽しんでいることも
出来ますし、当時は特に主人公のファンという
ことでもなかったので、2人が座った岩をみつ
けて、「ここに座ったのね」というようなミー
ハー気分もありません。ではなんだったのでし
ょう。

◎..私が惹かれたのは
 今回あらためて《転校生》を観て感じたのは、
「この場面が良かった」「この景色を見たい」
という特定の場所の魅力が私を尾道に連れて行
ったのではなかったらしいということ。映画全
体から「海と山の優しい風景」「船も生活に近
いところにあり、ロープウェイもあったり変化
に富んだ面白そうな町」、コメディタッチで作
られてはいますが、人々の日常生活はしっかり
描かれていて、住宅地や商店街が歩いてみたい
と思わせる魅力的な場所だったこと、そして町
を包んでいる暖かい雰囲気が伝わってきたこと。
それが「こっちにおいで」と誘ったのでしょう。
特定の箇所ではないから、現場を見て満足して
終わりとはならず、繰り返し行くようになった
のです。つまり単に尾道を紹介されたというよ
り、「尾道の見方、楽しみ方」を教えてくれた
作品だったと言えるでしょう。
 これが尾道への入口となり、お寺や美術館や
新聞社や(これはマニアック笑)、いろいろ足
を運ぶようになり、ホームページを開いたり、
そこでまた色々な人と出会ったり。そういうわ
けで尾道を紹介してくれた《転校生》に感謝し
ていますが、その上でやはり絶対に言いたいこ
とは、《転校生》が尾道紹介映像ではなく、映
画として名作だということです。だから惹かれ
た。でなければ映像がどんなに素晴らしくても
現地に行ってみようとまでは思わなかった。こ
の点が最も大事なポイントでしょう。

 もう1つ大事なポイントは、実際に尾道に行
ってみて、期待を裏切られなかった、期待以上
だったということ。観光写真などを見て実際に
行って「なーんだ、写っているところだけだ」
と思うのはよくあることですが、尾道は映画に
出てこなかった所にも良いところがいくらでも
あって、何回行っても見飽きない。時間によっ
て色が変わる海、季節によって変化する緑。映
画の風景が尾道の魅力の全てではなく、尾道の
一部を切り取ったものだったということ。だか
ら繰り返し行くことになったのでしょう。

◎..今見るとまた面白い
 尾道の方に大林映画のことについて意見を求
められたりすることがあります。私に何が魅力
かを尋ねながら「私は作品は観ていないのです
が」と言われる方も案外いらっしゃるのですが、
そういう方は私のことを「男女が入れ替わった
階段だから面白いの?」と奇異に感じているか、
「なぜわざわざ来るのか」と首をひねっている
のでしょう。地元の方が見慣れた風景の出てく
る映画を観て私ほど感動するかどうかは難しい
ところですが、あら筋を聞いたりして知ってい
るような気分になっている方は、是非1度観て
みて欲しいのです。あら筋だけでは想像も付か
ないほど面白いはずです。今、尾道の若い方が
観たら「ここってこんな風景だったの」と思う
場面もありましょうし、映像の中に何は捨てて
良い、どの風景は守るべきというヒントがある
かも知れません。題材は時代を経ても古くなら
ない男女の強さと弱さ、無知ゆえの残酷さと理
解してからの友情。深いテーマを笑いで包んだ
《転校生》、機会を作って是非ご覧下さい。当
時観た方ももう1度。25年前の自分に会える
かもしれませんよ。



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