2006年8月9日(水)
喫茶メキシコ
 50年本通りで最古参に
  「一期一会」大切にする河尻さん
店を守る奥さん50年前の開店時から使っていた備前焼のカップと皿
 今日も朝から常連客が顔を揃え、笑い声が途切
れない−。土堂1丁目、喫茶「メキシコ」が今年、
開店50周年を迎えた。消費者ニーズの多様化や店
主の高齢化などで、町なかの純喫茶が次々と姿を
消すなか、本通り商店街で最古参の喫茶店になっ
たが、市民のサロンとして愛され続けている。
                 [幾野伝]
 「メキシコ」はちようど半世紀前に国道沿い
(元広島総合銀行横)で開店、その後現在の本通
りに移り、27年前の1979(昭和54)年、前経
営者(やまとコーヒー)の知り合いだった河尻さ
ん夫妻がそのまま引き継いだ。主人は脱サラで、
2人とも店の経営は初めてだった。自家焙煎する
コーヒー豆の卸販売も手掛け、12年前には社名
を(有)尾道コーヒーボーイに変えた。夫人が喫茶
の店長として切り盛りし、市商連副会長でもある
主人は三成の工場で焙煎の作業、長女が事務と販
売を担当する。
 用事などがある日を除いてメキシコに定休日は
なく、特にウィークデーの午前中は常連客で賑わ
う。町の世間話や話題、訃報など情報が飛び交う。
「いろんなお客さんがおられますが、今の常連の
最高齢は92歳。いつも顔を出す人が何日も来られ
なかったら、心配にもなってきます。馴染みが少
しづつ減っていくのは何より寂しいことです」と
夫人(=写真)。
 時には文化人が立ち寄ることも。1997年の
NHKドラマ『極楽遊園地』の撮影時に来店した
俳擾、千秋実さんとは手紙や電話での交流を続け、
送られてきた同氏のサイン入り闘病記「生きるな
り」も手紙などと一緒に大切に保管している。千
秋さんが他界した今でも家族と連絡し合い、一期
一会を大切にする店主の心掛けが垣間見える。
 作家、井上ひさしさんは2001年の秋、ふら
っと姿を見せた。「店の一番奥に1人で背中を向
けて座られたので、初めは気付かなかった。とて
も気さくな方で、先日亡くなった親戚の米原万里
さん(ロシア語通訳家)のことも話しておられた
ことを思い出します」と語り、『涙を蒔いて喜び
を苅る』とその時にしたためてもらった一筆をカ
ウンターの後ろ中央に掲げている。
 遠来の観光客もリピーターが多く、「最近はこ
ういう喫茶店がめっきり少なくなった。いつまで
も頑張ってと励まされることが多くて」と苦笑い。
16年来、毎日来ているという常連の男性客は「や
はり経営者が店の雰囲気をつくり、お客の筋も決
める。私にとってここは寄りやすい。今日は朝も
来て、これで2回目」と楽しそうに語る。
 3年ほど前からは、「モーニング」(500円)
のメニューを1日中提供し、喜ぱれている。「も
う10年は頑張って、出来ればその後娘に引き継ぎ
たい」とこれからの抱負を語る。
 30年近く前と比べて市内の喫茶店の数は、半分
ほどに減少。尾三地域保健所による数字でも、2
000年の333店が2004年には268店で
大きく減っている。

個人名は転載時、主人、夫人、長女と置き換えました
場所はこちらの「め」



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