2006年1月22日(日)
尾道学研究会例会『尾道のお正月』
 天野家お雑煮 穴子ではなく塩ぶり
  浄土寺に残る「鰤(ぶり)市」を由来に 
椀に雑煮
 尾道学の構築と実践を旗印に、実のある実践・
行動を着実に積み重ねていこうという尾道学研究
会が、先日第2回目となる新春例会を開催した。
 今回のテーマは『尾道のお正月〜味わいと語ら
いの夕べ』と題して、市文化財保護委員・天野安
治氏のお宅に伝わるお雑煮を参会者皆で頂きつつ、
尾道の雑煮・正月談義で新春を寿ぐ例会となった。
 尾道の旧家・天野家伝承のお雑煮は、主流のア
ナゴではなく塩プリを入れる雑煮で、このプリを
5日間塩漬けにするのが特徴といえる。その他具
材には金時人参・ゴポウ・里芋・大根・水菜の野菜
類に、餅は通常の丸餅。ダシは昆布とカツオ。盛
り付けも上品で、大根の上に餅を載せ(これはお
椀に餅がつかぬ配慮)、その上に野菜類を彩りよ
く盛り付ける。
 天野先生による雑煮の解説に始まり、日本列島
及び広島県各地の雑煮文化を勉強した(以下にレ
ポート掲載)。

 【天野安治先生による解説より】江戸時代(天
保8年)に開設された、当時の倉庫業兼金融業で
ある「諸品会所」の運営に、私どもの祖先が携わ
って来た歴史がある。明治になりこれが諸品株式
会社になるわけだが、そこで尾道へ入って来る塩
プリの取引をする市が年末に立っていた。
 昔は生のブリという事はこの辺りではあり得ず、
みな塩プリであった。その大量に入って来る塩プ
リの代金の決済を、諸品の方で引き受けてやって
いた様である(代金を徴収して支払う、その間に
一時的に貸し付けもする)。そういう由縁で必然
的に塩プリが身近にあるという事から、これを雑
煮に使う様になったのではないかと思う。
 子供時分、年末になると家に塩プリがぶら下が
っていた記憶がある。それを雑煮にも入れるし、
食事の方もプリが中心になっていた様に思う。ま
た正月三が日の晩、塗り物のお椀に野菜の煮物を
入れ、そこに焼いたプリを付けたものが、所謂
″メイン・ディッシュ″になっていた記憶が残っ
ている。
 最近では塩プリというのは無いので、私どもの
所では年末に生のプリを買い、それを家で塩漬け
して昔流の形を今に伝えている。
 【日本・広島お雑煮文化圏】雑煮は地域や家庭
で多種多様な色・分布を見せているが、日本列島
の雑煮文化圏をまとめられた神戸山手大の奥村彪
生(あやお)教授によると、東日本は「すまし汁
で過半数以上で角餅を焼く」文化圏になっており、
片や西日本では「すましで丸餅を煮る」文化圏と
され、東西で角餅と丸餅がきれいに分かれている
(部分部分で混じりはある)。
 ダシで分類すると東西共に「すまし」が主流で
あるが、北陸は赤味噌、京阪神は白味噌、山陰で
はぜんざいの如き小豆汁の文化圏になっている。
 天野家に見られる塩プリ雑煮は、中国地方の他
に信州・飛騨・南紀・但馬・丹波・北九州に分布
しており、また越後地方では塩ジャケ雑煮が見ら
れるという。
 広島県内の雑煮文化(民俗)を見ると、分布で
は尾道の主流であるアナゴは尾道・三原・豊田郡
一帯に多く、神石・比婆・甲奴一帯ではハマグリ、
芸南の広島・呉・廿日市方面では土地柄からカキ
雑煮である。また吉和沿岸の干しフグ雑煮は、向
島と音戸町にも分布している。フグ雑煮は主に漁
村地域に多い様である。
 変わり種雑煮としては、山陰の岩海苔を用いた
備北地方の「オップリ雑煮」、賀茂郡の一部に
「コンニャク雑煮」、太田川流域の一部に「干し
アユ雑煮」が挙げられる。
 まさに所変われば雑煮も変わる。県内でも多様
な雑煮文化圏が地域別に形成されていて実におも
しろい。地域の誇る「地域遺産」の内に含まれる
郷土料理の中でも、雑煮がとりわけその土地の風
土・文化を色濃く出している様である。とにかく
雑煮と一口に言っても、全く一様でない所が雑煮
のおもしろさであろう。
 【参会者が語る雑煮・正月風景】わが家では前
日より食べる餅の数を増やしていく。例えば初日
に4個食べた人は翌日5個以上食べる慣わしを今
も続けている。所謂末広がりの意味の様だ▼私の
里は因島だが、家ではアナゴは使わなかった▼私
の家内の里は神石郡の三和町ですが、そこではよ
く「年の数だけ餅を食べにゃあいけんよ」と言わ
れていた(神石郡には子供が年の数だけ餅を食べ
る風習があった)▼餅をつく日を吉和では29日を
忌むが(全国的に29日に餅をつくのはタブー視さ
れる)、反対に栗原方面では29日はフク=福に通
じると解釈してこの日を良しとする▼その他、向
島津部田に「七草がゆ」の民俗行事があったが今
は途絶えてしまっている。これを是非尾道学で発
掘・再生させて欲しいという要望も併せて出され
た。
 この後、参会者皆で雑煮と正月をテーマに大い
に語り合い、わが家の雑煮には肉を入れますとか、
わが家では縁起が悪いからと元日に刃物を用いな
いなど、参会者それぞれの尾道のお正月風景が語
られた。
 中には面白く興味深い情報・指摘が飛び交い、
鏡餅の餅は鏡、橙は玉、干し柿が剣で所謂「三種
の神器」を表しているという発見的な話題に、些
か興奮気味にキラリと目を輝かせる参会者の姿も
あった。また、私が尾道に来て驚いたのは石臼が
町中至る所に転がっている事だという指摘に、そ
う言われれば確かに確かにと皆大きく頷いていた。
 石臼が旧市街にいか程分布しているかを調べて
見るのも、これはまた尾道学的におもしろいので
はなかろうか。墓に同じく中には凝った変わり種
石臼が見つかるやもしれない。
 本来なら事前に例会開催の告知が出されるのだ
が今回は定員に限りがあった為に、初回参会者を
中心に内輪での開催となった。

転載責任者メモ:実は観光客にとっても、この手の話が歴史や文化の中で取っつきやすく
        一番面白いのではないでしょうか。お雑煮に穴子が入っているというのは
        ビックリですが美味しそうです。関東では穴子をフワフワに柔らかくして
        食べる事がほとんどなので、"そういう穴子"を想像すると少し違う物では
        ないかと思います。穴子寿司も"魚らしく"パリッと焼いてあるぐらいなので。
        (想像ですが)


ニュース・メニューへ戻る