山陽日日新聞ロゴ 2004年4月15日(木)
29日に放映
大林作品《理由》が完成
 宮部みゆき ジャーナリズム小説を映画に
大林監督・宮部みゆきさんら
 大林宣彦監督の新作映画《理由》が、29日
午後8時からWOWOW(BS−5)で放映さ
れるのを前に、このほど東京の草月会館で完成
披露試写会が開かれた。
 作家、宮部みゆきさんが朝日新聞に連載、そ
の後文庫化され140万部の大ベストセラーに
なった長編小説「理由」(直木賞受賞)が原作。
厖大な登場人物がインタビュー形式で事件につ
いて語っていくという独特の形式から、映像化
は不可能と言われてきた作品だけに、撮影当初
から大いに注目されていた。
 総勢107人の出演者の多くが出席するなか、
大林監督が次のように舞台あいさつした(=写
真上は監督夫妻の間に宮部さん。下は出演者の
面々)。
 【大林監督】ほぽ半年ぶりにネクタイを締め
て、今日改まった気持ちで家を出て来ました。
長年のパートナーであるプロデューサーの我が
妻が、来る途中、「あら、きれい..」と声を挙
げるんです。見ると道端の石垣に黄色とオレン
ジの花が陽差しを浴びて命一杯に咲き誇ってい
る。とても愛おしい。でも今日の私たちの身辺
は(イラク問題などで)、とても穏やかとは言
えません。こんな時に映画見物なんかしていて
良いのだろうか、と皆さん思われるかも知れま
せん。
 宮部さんの「理由」は新聞の連載小説です。
紙面の中の小説という虚構のエンターテインメ
ント。かつて連載小説というものは、同じ紙面
に嫌なことや暗いこと、辛いことはあるけれど
も、その日々の憂さや世の中のことを忘れて、
楽しめるという役割を担っていた。映画もそう
だった。しかし今は、もうそんな時代じゃなく
なった。たぶん宮部さんがこの紙面に「理由」
という虚構、ミステリーを書く時、同じ紙面に
載っている様々なこの世の出来事がけっして無
視できないという形で、作品に反射されたはず。
その意味で、紙面の一角を占めるこの虚構の物
語は、もはや虚構を超えてやはり日々のジャー
ナリズムの一部だったのだろう。その自覚が宮
部さんの中にはっきりとあった。
 ドキュメンタリータッチ、一つの事件を結ぶ
普段は無関係な人達のそれぞれの物語をルポル
タージュ風に訪ねていく。かと思うと時には三
人称の見事な短編小説のような味わいをみせる。
こういう混沌とした人称を持つ小説を、映画と
いう一つの人称に纏めてこの中からドラマや映
画の五本や十本は出来るような素晴らしいエピ
ソードがたくさん詰まっている。それを抽出し
てドラマや映画にしようという試みはこれまで
もあったそうですが、宮部さんは首を縦に振ら
なかった。つまり新聞小説という虚構の中で、
宮部さんはその日々の出来事や願い、悲しみや
喜びとともに過ごした、ご自身の主柱であると
ころのドキュメンタリーを疎かにしては、これ
は似て非なるものになるだろうと思われたので
しょう。
 私もどんな形で映画に移し換えようかと思っ
た。やはり映画的にきっちりと虚構を創りあげ
て、しかしその虚構にスクリーンの外の日々の
出来事がどのように反射出来るか考えた。原作
は1996年の物語だが、時世を今に移し換え
ることは止めた。ドキュメンタリーで大切なの
は時世を守ること。
 宮部さんが託して語られた、予兆としてのあ
の恐ろしい時代がもう来ているのかも知れない
ことを、私達はしみじみと考えなくてはならな
い。新聞小説という宮部さんの精神的なドキュ
メンタリーを引き受け、映画で再現した。(お
わり)
※現在発売中の「週刊朝日」四月二十三日号で、
宮部さんと監督の映画化記念対談が四ページに
わたって掲載されている。



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