山陽日日新聞ロゴ 2003年6月24日(火)
木造旅客船の再建
大林監督「これはノスタルジーではない」
 物作りは自然との対話
  伯方島、渡邊忠一さんの作業場に
船の骨組みを前に渡邊さんと監督
 (続報)1959年建造の木造旅客船「だいふく」(映画で
は船名「呼子丸」)を、1/6にスケールダウンして再建造し
ている愛媛県伯方町の船大工、渡邊忠一さん(72)の作業場を、
映画作家の大林宣彦監督と恭子プロデューサーが21日午後、訪
れた。
 2人が渡邊さんを訪ねるのは、まだ設計段階だった昨年の1
月以来で、同秋の着工からは今回が初めて。
 国内産の木材を使って全長3.2m、着工から8ケ月で船の基礎
部分がほぽ組上がっており、「去年、着工前に監督から『模型
ではなくて、小さくても本当の船にして欲しい』と言われまし
た。初めは、見えない所はおおざっぱにやろうと思っていたの
ですが、本物の船でこの先何百年も残りますから、いい加減な
ことは出来ません。作業に手間は掛かりますが、誰が見ても恥
ずかしくないものを作っています」と渡邊さん。「この船で
378隻目になりますが、旅客船は『だいふく』一隻でした。
何隻作っても同じ船はひとつと無いです。いつもが初めての気
持ち、死ぬまで勉強です」と語った。
 「この自然美にはほれぽれします。渡邊さんの自然との対話
からこの船は生まれていますね」と大林監督。
 渡邊さんは「何でも効率主義の時代ですが、それじゃあいけ
ないと思います。私も度々鋼船づくりを勧められましたが、断
ってきました」と話し、「この船は決してノスタルジーではな
い、これが21世紀これからの船になるんですね。この美しさを
子供たちに伝えて欲しいです」と監督は応えた。
 「もし私が船大工でなかったら、監督とも会うことが無かっ
たですね」、「私も映画を作ってなかったら、渡邊さんにお会
いして無かった。物を作って生きていると、何かが繋がって来
ますね」と船と映画の職人同士、いつまでも話は尽きなかった。
 対談の内容は、映画感想家の大林千茱萸さんと、再建事業を
進めている市民グループ「呼子丸1/8再建おのみち実行委員
会」(大谷治代表)の手でビデオに収められた。本紙ではこの
内容を紹介していく予定です。
 23日には渡邊さんが尾道を訪れ、実行委員の笠井義徳さんら
の案内で福屋ギャラリーで開かれている「呼子丸再建写真展」
を見学した。



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