山陽日日新聞ロゴ 2003年1月1日(水)
美術館のリニューアル・オープンに寄せて
 
旧さに新しさ重ねて活力を
  尾道市民へのメッセージ 建築家 安藤 忠雄
安藤忠雄氏
 尾道は、瀬戸内しまなみ海道の広島県側の玄関口にあり、開
港830年の歴史を持つ港町だ。そこから臨む瀬戸内の多島海
の風景は、独特の雰囲気を醸し出す旧い街並みとともに、もっ
とも美しく、懐かしい<日本の風景>として、日本人の心に深く
焼きついている。
 その尾道の文化遺産を伝える郷土資料館、尾道市立美術館の
増築の設計依頼を受けたのは二年前の春だった。『瓦屋根の本
館をそのままに活かした増築で、新しく刺激に満ちた施設に出
来ないか』との亀田市長の言葉に驚くのと同時に、非常な共感
を覚えた。日本では地方で文化施設をつくるというと、とかく
旧いものを排除して、全てを新しく塗り替えようとする傾向が
ある。そうした中で、手間暇をかけて、あえて旧いものを残し
ていこうという企画を推し進めた市長の勇気は称賛に値するも
のだ。その意気込みに、設計者として精一杯の建築で応えるこ
とを、約束した。
 施工した建物は、企画の意図通り、旧い本館とガラスを多用
した新館部分とが、重なり合うように並ぶ。新旧が<対>の構成
になっている。あえて、全く現代的な表現を持ち込んだことで、
逆に新旧が互いに刺激し合うような、活力が場に生まれたよう
に思う。
 その新館が徐々に形をなしてきた昨年の9月、尾道市長は、
再び型破りな企画で、市民を喜ばせた。完成に先立って市民に
施設内部を公開する、現場見学会の開催である。
 文化施設で大事なのは、建物の完成後それをどのように使い
こなしていくかだ。いくつかの美術館などの設計経験から常々
そう感じていた私が、何気に提案した見学会だったが、市長は
その意図を真剣に受け止め、前例のないこの会を本当に実現し
てくれた。当日集まった千二百人余りの人々の好奇心に満ちた
表情は、見学会の成功と、新たな美術館への市民の期待を、如
実に語っていた。
 生まれ変わった新尾道市立美術館が、今後どのように運営さ
れ、地域に息づいていくか−計画に参加した人間の一人として、
真剣に見守っていきたい。尾道の新たな文化拠点建設に関われ
たことを心から誇りに思う。
(建築家 安藤忠雄)

転載責任者メモ:市民へのメッセージと言うことで、ご本人に無断で転載
        しておりますが、不都合があればメールでご連絡下さい。

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