2002年1月1日(火)
船大工の"職人魂"今も健在
 木造船『大福丸』の再建計画で、伯方島の渡辺さん
再建に向けて設計図を描き始めている渡辺さん若かりし日の渡辺さん
1959年3月、進水したばかりの「大福丸」の勇姿
尾道水道に浮かぶ「呼子丸」(97年)
「三高丸」時代の客室
 「かつて」と言っても、ほんの数十年前まで、生活の足として島
島を廻り、瀬戸内海を縦横に走っていた木造の渡海船(とかいせん)。
この木造船の建造技術を今でも守り続けている船大工が、尾道沖の
愛媛県伯方島に健在である。今年70歳になる渡辺さん。後に大林
宣彦監督の映画《あした》の撮影で使われた木造船『呼子丸』、誕
生名『大福丸』を43年前に造った人である。当時の思い出を語っ
てもらった。
 木造船『大福丸』は1959年3月、伯方島にあった造船所で渡辺さ
んら職人の手によって造られ進水した。渡辺さんが、船大工になっ
たのは18歳の時。「家大工になるか、船大工になるか迷いました」。
「大福丸」は職人の道に入って8年ほど経った時に建造したことに
なる。当時、木造船には細かな設計図などは無く、渡辺さんが描い
た舟形の図面だけを基に、職人たちの技術で造り上げた。「船体の
7割が水の中にあるように喫水を吃水を深くし、横に傾いても復元
力が強くて、絶対にひっくり返ることはない。速くは走れないが、
安定した船でした」と振り返り、まさに『経験工学』と言われる知
識と工夫、そして自身を持っていた当時の職人たち。
 「当時14,5人で完成までに半年ぐらい掛かったはず。全て手
仕事で、当時は皆んな職人だったから、『ああだろうか、こうだろ
うか』と協議しながら造っていきました。『大福丸』は最新型で、
真っ白な綺麗な船でした」と、今も大切に保管している進水式のよ
うす、舟形を描く若かりし頃の自分のモノクロ写真を手に語る。
「50馬力ぐらいの焼き玉エンジン、優秀な船でしたね。進水式の
時は、船体を派手に飾りました」。
 当時瀬戸内の島を廻る渡海船は、旅客船でありながら、島での生
活物資なども運べる貨物兼用になっているものが多く、客室と同じ
ぐらいの広さの荷物デッキを備えていた。しかし「大福丸」は人専
用だったことから見ても、中でもレベルの高い船だったと推察出来
る。通算で木造渡海船を十数隻造ったという渡辺さんも、人専用は
「大福丸」だけだったということからも、それは裏付けられる。
 鋼船断り木造船を貫く
  今も建造依頼は県外から

 その後、勤めていた造船所が廃業し、渡辺さんは独立。「儲かる
鋼鉄船を造ってみないか?と何度も誘われましたが、断ってきまし
た。自分の手で技術を活かせる木造船だけをコツコツ造って来たし、
お陰で仕事が途切れたことはありません」と職人魂を貫く。現在も
大三島橋を望める穏やかな「鼻栗瀬戸」のそばの小さな作業所で、
小型船を中心に建造を引き受けており、依頼は県外からもある。最
近では宮窪町能島(のしま)の水軍・小早船も手掛け、その名声は
遠くまで響く。
 『大福丸』は当初、岡山県笠岡諸島の北木島と本土の笠岡を行き
来していた。当時の船主だった川本さん=現在 笠岡フェリー社長=
の妻、Kさんは「とても背の高い、美しい船でした。桟橋で引き綱
のやり取りの時、怪我をしたことを思い出す」と懐かしがった。
 その後「三高丸」と船名を変え、広島市沖の能美島に活躍の場を
移し、10年ほど前に引退。大林監督の映画『あした』(95年公開)
に「呼子丸」の名で"出演"し、その後も尾道市の管理で尾道水道に
長く係留されていた。しかし、撮影時に船底に多くの穴を開けてい
たことや老朽化でついに2000年夏、浸水沈没し、尾道市の手で解体
処分された。撮影終了時から「陸に揚げての永久保存を」という願
いもあったが、結局何の手も付けられないまま、その姿を消した。
その後も映画ファンから呼子丸再建の要望が寄せられ、この声に応
える形で尾道市民の有志による縮小再建と、少なくなった船大工の
技術伝承を目的に昨年秋、活動が始まった。
 「木造船の技術を後世に伝えたい」という有志の熱意が通じ、募
金活動のスタートと平行して渡辺さんは早速、図面づくりに取り掛
かっている。日程を含め建造開始の目途はまだ立たないが、「私は
この仕事はボランティアだと思っていますから、徐々に取り掛かり
ます」と、職人気質を笑顔の向こうに覗かせる。
−瀬戸内船文化の伝承が目的−
 全長19メートルの「大福丸」を8分の1の大きさで再建する予
定だが、「瀬戸内の船文化の伝承」を大きな目的にしていることか
ら、船体の骨組みはもちろん、客室のディテール、模様なども出来
るだけ忠実に再現することにしている。
 市民有志による活動組織名は『「呼子丸」1/8再建おのみち実
行委員会』(大谷治委員長)。募金箱を市内各所に設置、中国銀行
尾道支店 普通1372937 同実行委員会名で受け付けている。


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