1998年8月28日(金) 県近代化遺産 尾道市編..(5) 柱上に幾何学的な装飾 東久保町、久保小学校校舎 |
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かつての尾道旧市街地の東の郊外、旧山陽道沿いの山手に位置す る久保小学校は、創設以来百二十余年に及ぶ名門校である。明治6 年に学制発布により小学温柔舎として土堂町天寧寺に創立され、明 治30年には尾道尋常小学校として、久保町山脇東側(現在位置)に 移転した。現在の校舎は尾道市久保尋常小学校舎として昭和8年に 新築されたものである。 学校全体の計画は、約9100平方メートルの敷地内の中央を運動場 とし、それを囲む形で東北側に寄せて、鉄筋コンクリート造3階建 ての校舎を配置している。なお、運動場の南側には、大正14年完成 の講堂があり、昭和48年に体育館に改築されたが、校舎に連絡する 木造の渡り廊下は現存している。 校舎の平面はL字型で、西、南の両端と交差部に出入り口と階段 が設けられ、それらを結ぶ廊下に面して教室が配置されている。校 門に近い校舎の西端の出入口は、玄関としてアーチ型のポーチが設 けられ、その両側に職員室と校長室が置かれている。 外観は、柱を外側から浮き出したバットレス(控壁)として表現し、 その間に浅いアーチを置き、これを柱間に応じて方立で分割して、 縦長のガラス窓を並べている。これはゴシック様式とともに学校建 設に好んで使用されていたロマネスク様式を近代化したものと考え られる。また、外壁は淡黄色のやや肌の粗いモルタル塗で、以前は、 柱の上に幾何学的な装飾がなされていたが、近年の改修で失われた ことは惜しまれる。 設計者は不明であるが、平面は合理的にまとめられ、デザインも 当時の時流によく通じており、学校建築に造詣が深い人物が参与し ていたと考えられる。 竣工当時中国地方随一と謳われた現校舎の建築費は総額12万円に 及んだ。鉄筋コンクリート造による校舎の不燃化は、広島、岡山の 2大都市に次ぐものであり、当時の尾道の豊かさと先進性を体現す るものである(全文掲載)。 |
転載責任者メモ:中に出てくる「渡り廊下」は大林宣彦監督の映画『あした』に登場