山陽日日新聞ロゴ 1998年8月21日(金)
県近代化遺産1000件  貴重な遺産の保存と文化財指定の資料に
 
尾道市は市分庁舎など23件
  桟橋、雁木など港湾関係施設が10件
 県教委は、幕末・維新から第二次大戦終結まで近代化の過程を担った
建築物・土木構造物の総合調査を実施していたが、約1千件存在するこ
とがわかり、このほど報告書「広島県の近代化遺産」(A4版、322頁)に
まとめた。
 近代化遺産は県内86市町村のうち13市すべてと62町村で確認さ
れた。旧海軍の拠点だった呉市が最も多く89件、これにつぎ広島市
82件、府中市75件、吉舎町71件、福山市56件、三次市59件、
三原市32件、新市町29件、廿日市市24件、尾道市は港湾関係を
主体に23件(別表=向島町含む)だった。
 調査は戦後、日本の社会が大きく発展するなかで、開発の進展や産業
構造の変化、あるいは生活における利便性の追求などから、こうした建
造物が取り壊されつつあり、またその危機にさらされている。このよう
な貴重な遺産を保存し活用することを目的にこれら近代化遺産の沿革や
構造、意匠などを調べ、後世に伝え残そうというもので、平成8〜9年度
の2年間、国庫補助事業として中国5県で初めて実施されたもの。
 5人の学識経験者ならびに市町村の協力を得て産業、交通、通信、土
木、軍事、教育・文化に大別しリストアップ。
 代表的な対象物について研究者や郷土史家らが詳細調査。これをもと
に県教委はさらに検討を加え、将来の文化指定の基礎資料にしたいとし
ている。
 報告書は第1章「調査事業の概要」、第2章「近代化遺産の概要」、
第3章「近代化遺産の事例」、第4章「近代化遺産の保存と活用」、
(座談会)からなり、とくに全体の85%をしめる274頁を使った
第3章で約千件から120件をピックアップし、写真や図面など添え紹
介しているが、この章に尾道市関係分を8件掲載している。
備後地方で明治期唯一  意匠上極めて優秀
 住銀尾道支店の市分庁舎
尾道市分庁舎
 この8件を中心に事例報告順に紹介する。
 まず商業・金融の項で、元住友銀行尾道支店だった久保1丁目、尾道
市分庁舎が現状外観の写真と明治37年と同42年の増築時正面立面図を使
い、大要つぎのように住友銀行70年史などをもとに2頁にわたり紹介さ
れている。
 建物は木造平屋建て寄煉瓦葺。東西約20m、南北25mの敷地に明治37
年、大阪府立中之島図書館の設計者として名高い野口孫市により石造を
模したモルタル仕上げで竣工。正面は切石をあしらった3連アーチの両
側に凱旋門型の翼型を配した端正な古典主義の意匠。さらに明治42年頃、
両翼が増築され、同時に屋根もドームや屋根窓を持つ華やかなものに改
められた。
 住友家は明治6年、元土堂町に住友家尾道分店を開設。明治28年の住
友銀行創設年にあわせ同行尾道支店となり、同37年当時の商業的中心地
であった久保町に移転、このあと昭和13年に元の位置に再度移転。旧建
物はカフェー、海運局になったあとの50年、市分庁舎に転用された。
 明治建築の名手として名高い野口孫市の現存する数少ない作品であり、
均整のとれた力強いプロポーションと清楚な細部を持つ意匠上極めて優
れた建物。また本格的な教育を受けた建築家の手になる明治期建築物と
しては、備後地方で唯一と思われる大変貴重なものであると評価してい
る。写真は尾道市分庁舎。

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