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 東天の虹
2001年9月28日(金)
東天の虹
ロケ中の大林監督
◎・・「映画監督というのは、何本撮っていても、クランク・イン
の朝は、どこかへ逃げ出したくなるぐらい恐いんだよ−」。
◎・・大林宣彦監督の映画『なごり雪』の撮影は、秋晴れのもと穏
やかにスタートした。監督はもちろんだが、スタッフは緊張の中に
も生き生きとした表情。臼杵は言わば落ち着いた『紳士の町』であ
る。静けさの中にも考え深い活力を持ち合わせているとでも言おう
か。撮影現場もこの町と同じ、早くもそんな雰囲気になっていた。
◎・・間もなくだった。相米慎二監督の訃報が届いたのは。臼杵自
慢の町並みから通じる坂道での撮影本番を迎えるところだった。過
ぎ行く夏に急き立てられるかのように、近くでツクツクボウシがま
だ鳴いている。一時全員が手を休め、監督から同士の他界が告げら
れた。口調はより一層静かだった。「相米さんは21世紀、これか
らの人だった。悔しいだろう。もっと、やりたいことがあったと思
う。私たちは今生きていることを噛み締めながら、撮影していこう」。
皆で手を合わせた。
◎・・『なごり雪』は、生きることに疲れた中年男性が、古里に暮
す元恋人の死に接し、かつての青春を思い出しながら、また元気を
取り戻していくというストーリー。「死」を身近かに意識すること
からこそ、今ある「生」を大切に出来る−。尾道映画はもちろん大
林作品に共通しているテーマだが、臼杵映画でもそれは揺るぎない。
◎・・冒頭の言葉は、この前尾道で聞いていた。今回の作品、初日
の朝はどんな気持ちで迎えたのだろうか。
◎・・「よーい、スタート」そして「はい、OK」。3年振りに聞
く掛け声。黙祷のあと、穏やかさがより増した気がした。大林宣彦
というクリエーターはここに、こうして生きているではないか。資
料館などに押し込めてしまおう、という発想自体が「生」を否定す
るものであったのだ。
                      (記者・幾野傳)


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